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夏
の憂鬱
今日私は桐山くんと海に来ている。
といっても水着は着ていなくて。本当にただ「来た。」
って感じなんだけど。
夏休みももう終わりに近い。
それでもここに来るまで凄く凄く暑かった。
桐山くんの方は全然暑そうには見えなかった。
今日の桐山くんは白いシャツにブラックデニムのジーンズという、いつもより
少しラフな格好だった。
こうして私服の桐山くんを見れる女子なんてあんまりいないんじゃないか
なと思う。
「 佳澄 、海に行かないか。」
「え?」
一週間位前、突然桐山くんから電話がかかってきて、
私が出たとたん、そう言われた。
「 佳澄 の空いてる時でいい。...何となくお前と海を見たくなったんだ。ダメか?」
凄く唐突な誘い。まあ、いつものことだけど。
ああ、でも、今私は…。
「…ううん、私も行きたいけど」
「…どうした?」
「…宿題が。」
そう、全然手をつけていない宿題が山積みになっていて。
毎年のように私はこの時期に苦しむ羽目になる。
少し間を置いて、桐山くんが言った。
「それなら、俺が手伝おう。」
「本当!?」
「ああ。」
まさに天の助け。数学なんて絶対一人で終わらせる自信なかったし(おい)
次の日から三日位、図書館に籠もって桐山くんに教えてもらったおかげで
(教え方も凄く上手かった。)無事宿題は片付き、今こうしていられるのだ。
本当、桐山くんには感謝してる。
私と桐山くんは、こんな風に仲はいい方だけど、決して付き合ってる訳
じゃない。
中一の時、同じクラスで、委員会が一緒になったのがきっかけでよく
話すようになった。
桐山くんはもう既に入学式の時に上級生の不良達をたったひとりで
倒したとか、同じクラスの沼井くん達をはじめとする不良グループ
のボス(沼井くんがこう呼んでた。)に収まったとか、怖い噂が沢山
あって、クラスの女子達、いや男子でも皆怖がって近寄らないように
していた。
私も初めは少し、いや凄く怖くて、同じ委員会になった時はどうしよう
と思ってたんだけど。
話してみると、全然、普通の人だった。
確かにあんまり、てゆうか全く表情が変わらなくて、多分そこが近寄り難い
雰囲気をつくってるんだと思うけど。
私と話す時、真っ直ぐ私を見つめる真っ黒で綺麗な瞳だとか、癖なのか、
よく左のこめかみを触るしぐさとかが、何だか可愛く見えた。
男に可愛いなんて、おかしいかも知れないけど、本当にそうなんだから
仕方ない。
そのうち桐山くんは何故か私のことを「 月村 」じゃなくて「 佳澄 」
って呼ぶようになった。
初めてそう呼ばれた時、私はびっくりするやら恥ずかしくなるやらで。
「桐山くん、どうして…今、名前で…」
「? 佳澄 の周りの奴は皆、 佳澄 と呼んでるじゃないか」
そりゃ、呼んでるけど。それは女友達だからだよ。
「それに…佳澄 と呼んだ方が、何となく、いいんじゃないかと思ったんだ」
「何となく。」が口癖の桐山くん。
やめて、って理由も無いから特に反論もしなかったけど。慣れるまでは、本当に
恥ずかしかった。
それから、中二になって、桐山くんとはクラスが離れてしまった。
私はA組。桐山くんはB組。
でも隣同士だから、行事とかは結構合同でやることが多かったんだけど、
そういう行事に桐山くんは来ない。
それでも帰りが一緒になったりとか、結構話したりはしてた。
少しした頃、たまたま桐山くんと帰り道で会った。
家は同じ方向だし。
「…最近どうしてる?学校楽しい?」
「別に…どちらでもない」
会話が弾まないのは仕方ない、と今では割り切っているけど。
やっぱり反応が薄いんだ、桐山くんは。
それからいくらか話して、(いつも私が一方的に話してる気がする。でも
桐山くんは黙って聞いてくれてる。)私の家の前まで来たので、
「じゃあ、桐山くん、またね。」
そう言って家に入ろうとした私に、桐山くんは何かメモみたいなのを
渡してきた。
「…何?これ…携帯の番号?」
「…最近、買った。こういうのを持つのも、面白いんじゃないかと思った。」
「ふうん、桐山くんも持ってるんだー。私も最近買ったばっかりなんだ。」
教えるよ、と言って私もメモを取り出して自分の番号を書いて渡して、その日は別れた。
それから、不定期だけど桐山くんから電話がかかってきた。
話す内容は他愛ないんだけど、とゆうか彼は特に用件も無くかけてくること
が多かったがー私がいつも一方的に話して終わった。
でもそのうち何回かは「どこかへ行かないか」という誘いが含まれていて。
何回か桐山くんと出かけたことがあった。
こういうの「つきあってる」っていうのかもしれないけど。
桐山くんは私のこと「好きだ」って言ったわけではないし。
私も別に、桐山くんのこと「好き」ってわけではない気がする。
何かもっと別の、言葉では言い表せない、一緒に居ると安心するとか、そんな感じ。
だから、こんな関係でいいんじゃないかなって思ってた。
あとがき
鈍感な主人公。ボスも偽だし。わけわからんし。しかも
続き物。とりあえず、続編も読んで頂けると嬉しいです。