Pure
HRも終わり、掃除当番以外の生徒は皆思い思いの方向に向かう時間。
三年C組の教室に、一人の少年が現れた。
後ろ髪の長い、特徴的なオールバックに、恐ろしい程端正に整った顔立ち。
この学校で―いや、県内でその名を知らぬものなど居ない。
不良のカリスマ、桐山和雄。
誰かに因縁をつけにきたのだろうか、教室に緊張の色が走る。
いつもは幅を利かせている崩れた感じの男子達も震え上がっていた。
だがしかし、桐山はそんな連中にはなんの興味も無いようだった。
桐山はスタスタと教室に入って来たかと思うと、
一人の女生徒に声をかけた。
「
、帰ろう」
「うん」
名前を呼ばれた
は嬉しそうに頬を染め、椅子から立ち上がる。
今まで
と話していた女子達は唖然として、桐山と
とを交互に見た。
彼女達だけではない。
C組に残っていた生徒達の視線は、想像もつかなかった組み合わせの二人へと
集中していた。
二人は仲睦まじい様子で、扉の向こうへと消えていった。
は小走りで、足の速い桐山の後についていく。
桐山は真っ直ぐ歩いていたが、やがて
を気遣って足を止め、振り返ると、
やっと追いついた
に、「荷物は俺が持とう」と声をかけた。
「あ、でも」
「気にする事は無い」
桐山はそう言って
の持っていた重そうなサブバックを自分の片手に提げた。
「ありがと、和雄」
は微笑んで桐山を見上げて言った。
と桐山が付き合い始めてからまだそんなに日は経っていない。
けれど、二人は充分お互いにとって幸せな時間を共有出来ていた。
一緒に廊下を歩いているうち、桐山は片手でそっと
の手を取った。
は少し驚いて桐山を見上げる。
「ちょっと、和雄…」
「何だ?
」
真顔の桐山に、
は少し小さな声で言った。
「手は繋がないでいいよ…」
「嫌だったのかい?」
「だって、皆、見てる、し」
二人は行き交う生徒達の注目の的になっていた。
その視線にさらされ、
は急に恥ずかしくなった様だった。
桐山は「わかった」と頷き、そっと
の手を離そうとした。
その顔はどこか寂しそうに見えた。
は慌てて、その桐山の手を取った。
少し、頬を紅く染めながら。
「や、やっぱ繋ごう」
「ああ」
桐山は穏やかな顔をして、また頷いた。
二人はその日、
の家の前まで手を繋いで帰った。
次の日。
昼休みのチャイムが鳴って間もなく、桐山は
を迎えにまた
C組へとやって来た。
一緒に屋上でお昼を食べるために。
「あ!」
「どうしたんだ?」
「お弁当忘れた!」
は少し申し訳なさそうに、桐山に言った。
最近、
は桐山の分もお弁当を作ってきていたのだ。
「ごめんね和雄…今日は購買で買って食べて…」
「
は、どうするんだ?」
「…今日は抜きで…」
桐山は暫くの間、
をじっと見ていたが。
やがてぽつりと言った。
「俺もいらない」
「え?」
「
が作ってくれる弁当しか食べたくない」
は戸惑った。
桐山はいたって真剣な顔をしている。
本当に自分も何も食べないつもりなのだ。
けれど、それではあまりに桐山が可哀相で。
は困った様に桐山を見上げて、言った。
「だって和雄、お腹空いちゃうよ…?」
「それは、
も同じ事だろう?」
桐山はいつも通りの無表情で
に答えた。
そう言われては、返す言葉が見つからなかった。
仕方ないので、購買でパンを買って二人で食べようと提案すると、
桐山は漸く納得してくれた。
ただでさえ痩せている桐山がこれ以上痩せてしまったら大変だ。
はもう二度とお弁当を忘れない事にした。
桐山と
が屋上に来た時には、もう充を始めとする他の桐山ファミリーはお昼を
食べてしまった後の様だった。
「あら桐山くんに
ちゃん、今日は遅かったわね」
二人の姿を認めるなり、月岡ことヅキが話し掛けて来た。
「購買が混んでいたんだ」
結局一つしか残っていなかったジャムパンを、
と半分ずつに分けながら、
桐山は淡々と答えた。
ヅキはしみじみとした様子でそんな二人を見ながら言った。
「もう桐山くんと
ちゃんが付き合い始めて一ヶ月になるのねえ...」
は、ヅキにそう言われて初めて気がついた様に言った。
「あ、もうそんなに経ってるかな...」
「あん時はびっくりしたよなあ、ボスがいきなり
連れてここ来た時は」
横に居た黒長も話に入って来た。
「充なんかすげえ驚いて、顔真っ赤だったもんな」
笹川も充を冷やかすようにそう言った。
「うっせーな、ちょっと驚いただけだろ」
実は
の事を少なからず意識していた充は、当初戸惑いを隠せなかったのだが、
今はすっかり落ち着いて、桐山と
の仲を見守ると決めているのだった。
そんな充たちのやりとりを静かな表情で見ている桐山の方に、ヅキが近づいてきた。
「ねえ、桐山くん」
そっと顔を上げた桐山に、ヅキは興味深そうに訊いた。
「最近
ちゃんと居て一番嬉しかった事って何かしら?」
他愛の無い質問だった。
ホラ、やっぱり中学生同士のお付き合いってどんなのか気になるじゃない?
え?アタシはもちろん三村くんと付き合う時の参考にするのよ?
目を輝かせて自分を見ている月岡に、桐山は少しの沈黙の後ぽつりと言った。
「月曜の夜、
を初めて抱いた。…悪くない感じがした」
その桐山の発言に、一瞬そこに居た全員が固まった。
ヅキはみるみる乙女の様に頬を染めた。
それから、
「きゃあ桐山くんったら、何て手が早いのかしら!」
となぜか嬉しそうに騒ぎだす。
充は頬を真っ赤に染めて硬直していた。
彼にとってはショックだったらしい。
笹川と黒長は、
「さすがボス、やる事はちゃんとやってるんだな」
と尊敬の眼差しで桐山を見た。
だが一番動揺したのは、
だ。
「ちょ、ちょっと和雄…!」
がひどく困った様な顔をして自分を見つめてきたので、
桐山は不思議に思ったらしく、首を傾げて言った。
「
は嫌だったのか?」
「違うけど、そう言う事は人前で言っちゃだめ!」
「そういうものなのかな」
「そうなの!」
「わかった」
桐山はまだ不思議そうに首を捻っていた。
は気が気でなかった。
桐山は恥ずかしがると言う事をまるで知らない。
そんな所も含めて、大好きなのだけれど。
その日も
と桐山は二人で手を繋いで帰った。
最近桐山は帰り際、必ずと言って良いほど
の家に寄った。
「
の家に居ると落ち着ける」
何回目かの訪問の時に、桐山はそう穏やかな顔を
して
に言った。
にとってそれはとても嬉しい言葉だった。
桐山ははっきりと
に「好きだ」と言ってくれた事は数えるほどしかない。
告白して来た時と。
初めて、抱かれた時と。
けれど、桐山の、自分にだけ見せるような仕草や、ちょっとした気遣いが。
言葉なんて必要ない位に、自分を愛してくれていると言う事を表してくれた。
は、幸せだった。
「ただいまー、って誰もいないけどね」
「お邪魔します」
の家にはこの時間誰も居ない。
両親は仕事で。兄弟は学校やそれぞれの都合で。
それでも桐山は律儀に家に上がる度に挨拶をした。
「今お茶入れるね。そこで座って待ってて…」
の言葉はそこで途切れざるを得なかった。
桐山が
を背中越しに抱きしめてきたのだ。
「ちょっと和雄...」
桐山は特に表情を変えないまま、困った様な表情の
に少し低い声で、囁いた。
「…したくなった」
は溜息をついた。
家に着いた途端、これだ。
「ここなら誰も見ていないから」
それが、桐山の言い分だった。
もう慣れた事なので
は諦めていた。
それに、悪い気持ちはしない。
は桐山の腕の中で身体の向きを変えて、そっと桐山の胸に顔を埋めた。
それが、了解の印だった。
「
」
桐山はぎゅっと腕の中の
を抱きしめて、言った。
「俺は、ずっと
と一緒に居たい」
「和雄…」
は桐山の背中に手を回して、優しく撫でた。
「私もだよ、和雄」
その言葉を聞くと、桐山の自分を抱く腕に、再び力が篭もったようだった。
は降りて来た桐山の唇を受け止めた。
桐山の手がゆっくりと
のセーラーのスカーフを解き、
裾を捲り上げて
の柔らかな胸にそっと触れてくる。
―ここなら、誰にも見られてないから。
自分の胸に甘えるように顔を埋めて来た桐山の頭を愛しげに
撫でながら、
は桐山のなすがままに身を任せていった。
おわり
後書き:
バレンタインリク、さつき様から「原作桐山夢で、付き合ってる設定で。平気な顔でヒ
ロインにベタベタしてきたりノロケたり爆弾発言する桐山に、ドキドキしちゃうヒロイン
と周囲の人たち。微妙に裏風味希望。」との事でしたが、見事にバカップルにしてしまいました
…すみません。ボスを壊してしまいました。一体何があってボスはこんなに主人公を愛して
るんでしょう(汗)。
でも万が一ボスが誰かを好きになったらすごく一途に、その人だけを愛するようなイメージが
あるのです(恥)。だから題名「純粋」って意味にしてみました。
こんな駄文ですが、よかったら受け取ってやって下さい。
リクエストありがとうございましたv
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