さよなら 大好きな人
さよなら 大好きな人
まだ 大好きな人
くやしいよ とても
悲しいよ とても
もう かえってこない
それでも私の 大好きな人
「さよなら」
私は大好きだった人に別れの言葉を贈りました。
泣きそうだったけど。
あの人が笑っている顔の方がいい、と言ってくれたから。
一生懸命、我慢しました。
さよなら 大好きな人
「和雄、また後でね」
「あぁ」
他愛ない会話。
それが私が和雄と交わした、最後の会話になった。
私はずっと、和雄の事が好きだった。
きっかけは、和雄が不良に絡まれていた私を助けてくれた事。
和雄はとてもとても、強くて。
あっという間に一人で三人の不良を倒してしまった。
息ひとつ、切らさずに。
和雄にしてみたら、ほんの気まぐれだったのかも知れないけど。
私にとっては凄く大きな事で。
それから少しした頃。
私は勇気を出して、和雄に告白した。
「桐山くんの事、ずっと好きでした」
使い古された言葉しか並べられない自分が悔しかったけれど。
その時の私の、精一杯の言葉だった。
和雄は驚いた顔をしていた。
隣のクラスの、たった一回助けただけの女に突然告白されたら、
誰でも驚くだろうけど。
和雄がそんな風に表情を変えるのが何だか新鮮な気がした。
「俺を好き...?」
和雄は首を傾げて私に尋ねた。
私は恐る恐る頷いた。
少し、間があった。
「...そうか」
和雄はいつもと変わらない声で、そう一言だけ言った。
そうして、背中を向けようとした。
「あ、あの、待って...!」
慌てて私が呼び止めると、和雄はゆっくりと振り返った。
「...何だ?」
「あの...返事...」
「ああ」
和雄の表情は、やっぱり変わっていなかった。
とても綺麗だけど。
どこか、冷たい。
「
は、どうしたいんだ?」
和雄は真っ直ぐ私を見て尋ねた。
そう言えば、緊張のあまり言えなかった言葉が、あった。
「もし良かったら、私と付き合って下さい」
私は少しどもってしまいそうになりながらそう言った。
和雄は、黙って私を見ていたけれど。
やがて頷いて。
「ああ、構わない」
静かな声で答えた。
「そういうのも、面白いんじゃないか」
それから私は、和雄とよく一緒に居るようになった。
何だか夢みたいに簡単に、私たちは付き合うようになった。
「俺は、付き合うと言う事が良く分からない。だから、教えてくれないか」
和雄が私の告白を了解した後、初めて言った言葉がそれ。
私はそんな和雄の言葉を少しおかしく感じたけれど、和雄が真剣な顔をしていたので、
「わかった」と答えるしかなかった。
和雄は私が言った事は大抵素直に受け入れた。
「私の事は、
でいいよ」
そう言ったら、ちゃんと私を
と呼んでくれるようになったし。
ただ、暫くした頃。
「
は何故俺を和雄と呼ばないんだ?」
和雄が突然そう聞いて来た。
私ははっとした。
私は妙に恥ずかしくて、その時まだ和雄の事を「桐山君」と呼んでいた。
「それは...」
「俺は、下の名前で呼ばれた事が無いんだ」
和雄はそっと目を伏せた。
「俺の名前は、嫌いなのかな」
少し、寂しそうな顔をした。
そう言えば、沼井くんたちも和雄を「ボス」って呼んでたし。
和雄と対等に話してくれる人なんて、居なかったのかも知れない。今まで。
「そんなこと無いよ、私、好きだよ?和雄の名前」
私は慌てて言った。
自然に口をついて出た、和雄の名前。
初めて口にした、和雄の名前。
「...そうか」
和雄はそれだけしか言わなかったけれど。
今まで見た中で一番綺麗な、優しい顔をしていた。
きっとその日から。
私は和雄の「特別」になれたのだと思う。
和雄は私が誘えばどこにでもついて来てくれた。
沼井くんたちの誘いより、私の誘いを優先させてくれているらしい所が、嬉しかった。
ただ、そのうち気になる事が出て来た。
「ねえ、和雄」
「どうした?
」
和雄がいつものように私の家に来ている時、私は思い切って和雄に聞いた。
「和雄はどうして笑わないの?」
和雄は私の問いに、少し眉を持ち上げた。
それきり、黙ってしまった。
和雄は何も答えてくれない。
重苦しい空気が流れた。
私は急に泣きたいような気持ちになった。
「和雄は、どんな事すれば、嬉しいの?」
それまで不安だった気持ちが、一気に溢れ出してきた。
「和雄は、どんな事したら、笑ってくれるの?私と居てもつまらないの?」
もし和雄がつまらないと思って居たのなら、私について来る筈、ないのに。
そんな考えは思考の隅に追いやられていた。
自分の頬を、熱いものが伝う感じがした。
そんな私とは対照的に、無表情のままの和雄。
それが余計に悲しくて、涙が止まらなかった。
「...分からないんだ」
「―え?」
ずっと黙っていた和雄が、口を開いた。
相変わらず静かな声だった。
「どう言う時に、笑えるのかな」
和雄の顔を見た。
やっぱりその顔に変化は見られなかった。
でも、不思議とその顔は哀しそうに見えた。
「...分からないの?」
驚いて私が聞くと、和雄は頷いた。
和雄の瞳は嘘をついていなかった。
和雄は本当に、分からないんだ。
和雄のせいじゃ、なかったんだ。
「...幸せって、思ってる、時じゃないかな」
私は震える声で言った。
泣いた所為で声が上手く出せなかった。
「...そうか」
和雄は私をじっと見ていた。
私の顔はきっと涙でぐしゃぐしゃになっていただろう。
でも、和雄はそんな私を見下すような様子もなかった。
和雄はその良く通る声で、また言った。
「俺には、その幸せ、という気持ちも、良く分からない」
私ははっとした。
和雄の手が私の頬に触れていた。
「だが
が幸せな時は、きっと俺も幸せなんだと思う」
ひやりとした手が私の涙で濡れた頬をそっと撫ぜた。
「だから、
には幸せで居て欲しい」
優しい声だった。
「
には、笑っていて欲しいと思うんだ。駄目かな」
―俺は、笑う事がどうしてもできないから。
和雄ははっきり言わなかったけれど。
私には和雄がそう言っているように見えた。
だって和雄は、自分に出来る事なら何でもしてくれた。
和雄は本当に―笑えないんだ。
胸が苦しくなった。
思わず和雄に抱きついた。
どうにかしてあげたい気持ちでいっぱいになった。
でも私にどうにかできることなら、和雄は困ったりしないだろう。
やり切れなくて、私はまた涙が出そうになるのを必死に堪えた。
和雄はそんな私を抱きしめて、優しく背中を撫でていてくれた。
和雄の前では、もう泣かないようにしようと思った。
実際、それから私は和雄の前で泣いた事はない。
和雄は笑う事はもちろん、泣く事も決してなかったけれど。
もう私は和雄を責める事は無かった。
和雄と居られるだけで、幸せだと思った。
和雄もきっと、幸せなのだと思えた。
それなのに。
狂ったこの国のシステムは、私からそんな幸せと。
大好きな和雄を、奪ってしまった。
―和雄。
和雄は、痛かった?
和雄は、苦しかった?
それなら、私も痛いよ。
私も、苦しいよ。
ねえ、和雄。
私今、全然、幸せじゃない。
でも私、泣かないよ。
和雄が笑っててって言ったから。
今は笑う事はさすがに、無理だけど。
和雄、大好きだよ。
もう、届かないのかもしれないけど。
和雄と一緒に居られて、私は幸せでした。
今は、笑えないけど。
すごく、幸せでした。
...さよなら。
おわり
後書き:
意味不明...。
花*花の歌を偶然聴いて思いつきました。
桐山の追悼って事で、ヒロインの一人語りです。
葬式...?
この話に関しては一人称のが雰囲気出るかなって思ったので。
どっぷり暗くてすいません。
しかし甘目よりはこっちの方がすらすら書けました。
リハビリ中には変わりないですが。
...頑張ろうと思います。
Created
by DreamEditor