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 ホワイト・クリスマス

 君が笑っていた

 11年前のクリスマス

 プレゼントというものを買ったことのなかった俺は、充や彰に相談しながらそれを選んだ

 銀の指輪

 左手の薬指にはめて、「なんか夫婦になったみたい」と言って君は笑った

 俺も自分の左手の薬指にそれをはめた
 その意味を理解もせずに

 ただ、そうするものだと思った

  佳澄 が喜ぶのなら、そうしてみるのも悪くなかった



 10年前の修学旅行

 俺は君の所へ帰ってくることができなかった

 涙を流す君を、ただ見ているしかできなかった

 俺は永遠に姿を消し、そしていま、魂だけが残っている


 そんな不確かなものの存在は、信じていなかったのだけれど

 存在しているものは、仕方ないな



 季節はいくつも巡って、君は段々と大人になった
 俺だけがいつまでも14歳の子どものままだった

 クリスマスに、一緒に過ごす人間がいるのではないか

 そう思ったが君は、どんな男の誘いも断った







 10年目のクリスマス。

 君は銀の指輪をはめて、花束を持って、俺の所へ来た







 「和雄。…25歳のお誕生日おめでとう」


 

 古びたダイヤの指輪

 俺は身体を焼かれるときに、一緒に溶けて失くしてしまった、指輪




 雪が降り積もる

 ああ、寒いんじゃないか

 そんなに凍えていては



 墓石の前に置かれた花

 降り積もる雪

 君への俺の想いも
 きっと



 きっと

 でも


 もう、いいんだ


 「 佳澄 」

 「―え?」


 25歳の 佳澄 と、14歳の俺。

 長かった

 長い時間を、君は待っていてくれた

 だから、もういいんだ

 「 佳澄 、愛している。…今までもこれからもずっと」

 薄くぼやけた、 佳澄 の顔

 驚いた 佳澄 の顔に、そっと手を伸ばして触れた

 触れた感触は暖かかった

 きっとずっと、忘れない






 俺は忘れないから

  佳澄 は忘れてもいいから

 「…最後みたいなこと、言わないでよ…」

 一筋の涙が 佳澄 の頬を伝った

 「最期、なんだ」

 俺は一言だけ言った






  佳澄 は泣いた。

 ぽろぽろ、ぽろぽろと涙を流した





 出会わなかったほうが、 佳澄 のためだったのかもしれない

 俺はずっと 佳澄 を苦しめてしまったから

 「…和雄…和雄…」

 俺はどこへ行くことも許されないだろう
 きっと。生まれ変わることも




 ただ、10年たった今、俺は「消える」期限を迎えてしまったようだ

 もう、 佳澄 を見ていられない





 こめかみが疼いた

 柔らかな胸の痛みが、肉体を伴わない俺の魂にじかに響く。

 「和雄。一緒にいられた時間は短かったけど、私は幸せだったよ。すごくすごく。それだけで、10年間ずっと幸せでいられた。
ねえ、和雄。…何か、言って。お願いだから…」







 「ありがとう。きっと俺も幸せだった」









 無から無へ還るだけ
 そう、思っていたのに


 この気持ちは何だろう


  佳澄 。…ありがとう。

 俺は最後に何かを見つけられたような気がする







 … 佳澄 。
 消えてなくなっても、俺が 佳澄 を想っていた気持ちだけは消えないから



  佳澄 。
 


 俺がどうなっても。

 君がいつまでも、幸せでいられるように。






 

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