静かの海で



 気がつくと、俺は何も無い真っ暗な場所にいた。

―俺は、どうしたんだろう。

―川田を撃って―、
七原も撃とうとして―、
―それから?

思い出した。
中川の銃が俺の方に向いていた。

一瞬だけ。

一瞬だけ、
鼻の横に、
頭の中に、


鋭い痛みを感じた。
そして、頭の中に熱い衝撃を感じて、

それから、覚えていない。

俺は―死んだんだな。




ああ、もうひとつだけ、覚えていることがある。
撃たれた瞬間、思い出した。

  の顔。

は、泣いているようだった。
どうして、泣いているんだ?


あの時。
は俺に修学旅行に行こうと言った。
俺には行く理由もないが、
行かない理由もないので、
―行く事にした。

が行こうと言ったからかもしれない。

は何だか、他の人間と違うようだった。
他の人間に、何かを感じることなど無かったのに。
と初めて話した時、
何故か胸が痛んだ。
こめかみも、疼いた。

―何故だろう?
ともっと話したいと思った。
もっと のことを知りたいと思った。



俺は、 とよく出かけた。
いつも、充に誘われたりでもしなければ
出かけることなどなかったのに。
俺が― を誘っていた。
どうして自分がそうするのかわからなかった。
どうも と会ってから、わからないことが多すぎる。


と、海を見に行った。
その時、俺は―初めて に「キス」というものをした。
自分でも、何故そうしたのかわからなかった。


―知識では、知っている。
「キス」は、恋人同士が、愛情を確かめ合う為にするもの。
相手が「好き」だからするもの。
俺は、 が「好き」なのだろうか?

やはり、俺にはよくわからないよ。

何故 にだけそうしたいのか。
何故会う度にそうしたいと思うのか。

修学旅行の時にでも、
に聞いてみようと思っていた。

だが俺は、 と修学旅行へは行けなかった。

コインを投げた。

裏だった。

俺は、このゲームに乗る、と充に言った。

死ぬつもりはなかったから。
帰れるのなら。
に、もう一度会えるのなら。

どっちでもいい、と思っていたんだ。

充たちを殺した。
少し、こめかみが疼いた。
何故疼いたんだろうか。
俺には、わからなかった。

それからも、たくさん、たくさん殺したような
気がする。
殺す時にも、殺されそうになった時も、特に俺は何かを感じることは
なかったけれど。

時々、痛みを感じることがあった。
時々、疲労を覚えることがあった。

そんな時、 の顔を思い出した。

こめかみが痛み、胸が苦しくなった。

何だろう。
こんなことは初めてだった。
何かが胸に広がっていく。
よくわからない、何か。

胸が苦しい。
これは、 に会えばおさまるのだろうか。

だが、俺は死んだ。

―死。
肉体の、消滅。
俺という存在の消滅。
では、もう俺は、 に会えないのかな?

俺は、真っ暗な場所に一人でいた。

少し、明るい所を見つけた。
俺は、そこへ向かった。


 
がいた。

俺は、 を抱きしめた。
何だか、ずっとこうしたかったような気がする。

に、俺の気持ちを伝えた。
そして、またキスをした。

だが、胸は苦しいままだ。
「また、会えるよ。」 はそう言った。
会えないんじゃないかな。
俺はもう、死んだから。
だが、それは には言わなかった。

再び、闇が濃くなってきた。

もう少し、もう少しだけ。
時間が欲しかった。
そうすればきっと、この気持ちが
何なのか、わかるような気がするから。

...。





気がつくと俺は、海にいた。
去年、 と眺めた海。
初めて、 にキスをした場所。
来年また来ようと約束した場所。

がいた。
泣いていた。

俺は思わず手を伸ばした。
何故だか…泣いていて欲しくない
気がした。


「桐山くん!?」
は俺に抱きついた。
俺も を抱きしめた。

「約束、守れなくて…すまなかった。」
「やだ!桐山くん!行かないで!もう、いなくならないでよ!」
は声を嗄らして泣いていた。
―いつも、こうして、海に一人できて、泣いていたのか。
また、胸が痛んだ。
「私…私…桐山くんのこと…好きなの。大好きなの。」
ずっと言えなかった、と言って は泣いた。
その時、俺の中で、何かがー何かが弾けたような気がした。
そして、
―わかったんだ、やっと。
この気持ちが、何なのか。
、俺も…」
の髪を撫でながら、俺は に言った。
が…好きだ」
ああ、この言葉を、言いたかったのかも知れない。
今の俺の気持ちを、きっと、一番表している言葉。
「桐山くん…」
は涙を目に溜めたまま、とても嬉しそうに俺を見て、そして
俺にまた抱きついた。
を抱きしめていると、悪くない感じがする。
俺たちは、しばらくそうして抱き合っていた。

俺の今の状態が何なのか、自分でもよくわからない。
俺の知識の中にも、こんなことは入っていない。

ただわかることは。

長く続く状態ではないということ。
俺は、既に死んでいる。
肉体も、もう無い。
だから、いずれ消える。

 

 
―身体が、透けて来た。

「桐山くん!?」
俺のその状態に気付き、 はまた泣きそうになる。
を抱きしめたまま、俺は言った。
「…泣かないでくれ」
もう一度、 の顔をよく見た。
忘れたくないから。
を覚えていたいから。
「お前の笑った顔を見ていたい。」
自然に、そう言葉が出た。
覚えているのなら、笑っている顔の方がいいと。
きっと、その方が、「悪くない」気がするから。

初めてだった。
こんなに何かを望んだことは。

 

「桐山くん…」
は涙を必死にこらえているようだ。
俺は、 に言った。
「きっと、また会える。」
確証は、何も無い。いつ、どこで会えるかも、どんな形で会えるのかも。
何もわからない。

だが、俺はこんな状態でも、 に会いに来る事が出来た。
だから、信じてみるのも悪くないと思った。
きっと、また会えるのだと。

今まで、俺には、感情が無いのだと思っていた。
それは死ぬまで変わらなかったと思う。

だが死んでから初めて、
こんな風に、「感じる」ことが出来るようになった
気がする。

俺は が好きだ。

また、 に会いたい。



を抱いたまま。
俺の姿は―完全に消えていった。

そして、俺の意識も消えていった。

俺という存在が、消えて無くなっていった。



「桐山和雄」は、多分この時、本当に死んだ。



は、桐山を抱きしめていた格好のまま、しばらくの間、
じっと、桐山の消えた方を見つめていた。


夢だったんだろうか?


そこには誰も居なかった。
ただ、波の打ち寄せる静かな音がしていた。


夢でもいい。

桐山くんは、確かに私に会いにきてくれた。





誰もいない、
静かな海を見ながら、
は一人でつぶやいた。
「桐山くん、ありがとう。もう、泣かないよ。」

伝えたいことを伝えられた。
知りたかったことを、教えてくれた。

「きっとまた会えるよね」

だから、

悲しいけど、―もう、泣かない。


 


おわり






後書きアズ言い訳  「夏の憂鬱」があまりにも暗くて救いようがなかったので、
これはそのフォローとして書いた話です。こっちは夏の憂鬱以上にパラレルです。桐山の視点から見た主人公について。暗いなあ。一応、両思いだと気付いたという所で無理やりハッピーエンド...。駄文です。自分で認めます。
桐山の性格、完全に無視して申し訳ないです。幽霊?みたいになってるし...。結局あれは何だったんでしょう。
 桐山は、死んでから主人公への気持ちに気付いて、成仏できなかったんです、と言うことに
しておいて下さい...。無理やり。何て非現実的な。
なんかこう、原作での桐山の終わり方があまりに儚げだったので、思いついた
話っぽいです。純粋な桐山を愛してた人すみません。
次はもっとほのぼのしたお話が書きたいです。
ちなみに、今回の「静かの海」も、ラルクのアルバム「へブンリィ」からタイトルをお借りしました。曲のイメージまたしてもぶち壊し。
これも凄くいい曲なので、是非聞いてみて下さい。