embrace


「ごめん、桐山くん。しばらく、こうしてても良い?」
「… がそうしたいのなら、構わない」
は待ち合わせ場所に来た俺を見るなり、俺に抱きついて来た。
別に拒む理由も無いので、俺はそのまま、 のしたいようにさせた。
押し殺したような声が時折聞こえる。 は俺の胸に顔を埋める形になっているので、
の顔は見えないが、どうやら泣いているようだ。

最近 は、こんな風に俺に抱きつく事が多い。
ただ、泣いているのは、初めてだ。
「何かあったのか? 。」
そう聞いたが、返事は無い。だから俺も、それ以上追及するのはやめる事にした。
はきっと、それを望んでいないのだろうから。

を見ていると飽きない。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、哀しんだり、色々な表情を見せる。
俺はそう言う風な事が出来ないから、それが出来る を見ているのは、悪くない、と思っている。
少し前まで、 は笑っている事が多かった。
笑っている時は、「楽しい」と感じている時らしい。
何がそんなに楽しいんだ?と尋ねると、 は「私は桐山くんといられるだけで凄く楽しいよ」という答えが返って来た。何故俺と居る事が楽しいのか、よくわからなかったが。
怒っている も、極稀にだが、見た事がある。
俺に対しての怒りでは無かったが、「友達がいじめられている」と言ってひどく険しい顔をしている事があった。
が自分の事で怒っている所は見たことが無い。
 そして、悲しんでいる も、あまり見たことが無かったのだが。
最近の は、笑う事が少なくなり、いつも沈んだ表情をしている。
その表情をしている時は「悲しい」という感情を抱いている時らしい。

「悲しい」という感情を抱く事は、あまりいいものでは無いらしい。
だが俺は、そんな感情を抱いた事が無いから、 がどんな風な気持ちでいるのかは、わからない。
ただ、「悲しい」よりは「楽しい」方が、 にとっては良いのだろうという事は、何となくわかる。
だが、どうしたら「悲しい」が「楽しい」になるのかがわからないから、俺は を、どうしてやる事も出来ない。
ただこうして、 の望むまま、 を抱きしめているだけだった。

「… 、俺はどうしたらいいのかな。」
「…え?」
ずっと黙ったままだった が、顔をあげた。
その瞳には、やはり「涙」というものが溢れてきていた。
俺が、流したことの無いものが。
「どうしたら、笑えるようになるんだ?今までは、俺と居るだけで楽しいと言って は笑っていた。だが最近 は笑わなくなった。俺は、居るだけでは駄目なのか?もっと他に、何かをすれば、 は楽しくなれるのか?」
俺は、考えたことをそのまま に伝えた。
だがそれを聞いた途端、 は俯き、何故か今までより余計に多くの涙を流した。
―俺は、何か気に触るような事を言ったのかな。
無意識に、泣き続ける の頬に手を当てる。
そうすると、 はやっと顔を上げて、俺を見た。
「…ごめんね…桐山くん…」
「…?」
俺は、 に謝られるような事をされた記憶はないが。
「色々あって…でも誰にも言えなくて…みんなの前では明るくしてるのに...桐山くんの前でだけしか泣けなかったの。ごめんね、自分勝手で」
「いや。」
俺はハンカチを取り出して、 の涙を拭った。
そうすると は「ありがと」と言って少し笑った。
久しぶりに の笑顔を見た気がする。
  はそのまま、もう一度俺の胸に顔を寄せた。
「こうしてるの、好きなんだ。」
そう言った は「嬉しい」という表情をしていた。
「…どうしてだ?」
それはずっと疑問に思っていた事だ。
何故 はいつも、こうして俺に抱きつくのだろう、と。

「桐山くんのね、心臓の音、聴くのが好き。」
「…俺の心臓の音?」
「うん。なんか、聴いてると安心するの。」
そう言って は目を閉じた。
俺には、そんな気持ちは、よくわからないが。
「… が好きだと思うのなら、聴いているといい」
「ありがとう。」

は、目を閉じたまま言った。
「私ね、桐山くんがこうしてくれてるだけで、凄く安心するの。だから、今のままでいいの。」
「そうか」

俺にはやはりよくわからなかったが、 はやっと笑ったし、このままでいい、と言った。
だから俺は、特別何もしなくて良いのだろうと思う。
俺に抱きついたままの の背中にそっと手を回して、抱き寄せる。
腕の中の は温かかった。
―悪くない。
こうしているのは、悪くない。
が確かに俺の腕の中にあるという事が感じられる。
こういうのを「安心する」というのだろう。

俺も、 とこうしていると、安心する。

その気持ちを確かめる様に、俺は の背中に回した手に、少しだけ力をこめた。


おわり



後書き  やっと書けました、短くて甘めの話。
あんま意味わからないまま終わりましたが(ダメじゃん)
えっと何が書きたかったのかと言いますと、桐山は感情が無いから(私の書くのはそう見えないけど。)積極的に慰めたりとかは出来ないけど、否定したり、突き放したりもしないと思うんです。ただ静かに見守ってくれてるというか…なに言ってんだろ私。
凄く落ち込んでる時って、下手に慰められるよりは、ただ黙って受け入れてくれる方がありがたい時もあるんじゃないかなと。す、すみません。
個人的に「桐山くん」て呼び方が好きなので、呼び捨てじゃないですが、この二人は付き合っている一歩手前位の関係です(微妙)
また甘めの話には挑戦したいです。