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『対決』

「ゆ...許してくれ!...俺たちが悪かった...。」
根元の黒くなった、明るい茶髪の男―、一見しただけで不良とわかる、は見るも
哀れな様子で、涙すら流しながら許しを乞うた。
彼の周りには四、五人の、やはり不良らしき風貌の少年達が、腫れ上がった、血塗れの
顔で倒れている。唯一残った彼も、既に手加減を知らぬかのように容赦無く殴られ、鼻
血を出している。彼は、目が合ったからという下らぬ理由で因縁をつけた自分たちのあさはかさを呪った。
「す...すみません...でした...だからもう...」
男は恐怖にガタガタと震えていた。

彼の目の前には、黒い詰襟の学生服-ホックは外していたがー、に身を包んだ少年が、
冷たい目でこちらを見下ろして立っている。その拳は赤く汚れていた。
フラッパーパーマをかけた金髪が、ふわふわと風に揺れている。
左耳のピアスが、月明かりを受けて不気味に光った。

「た...助け...」
少年が動かないと知ると、男は恥らうことすら忘れ、這いつくばってその場から逃れようとした。

金髪の少年は、無言でその様子を眺めていたがー、ふいにその口の端が吊上がり、不敵な笑みの形を作った。

次の瞬間、男の目は自分の前に何か白いものが飛び込んで来るのを捉えたが―、そこで男の思考は途切れた。

金髪の少年が立ち上がった時にはもう、そこに意識のある者は残っていなかった。
倒れた男の口からどろりと赤黒い液体が流れ出す。
少年は無言でそれを見下ろすと、興味が失せたのか、夜の街へと消えていった。



その翌日。

「なあ充、昨日D組の佐倉たちのグループが全員半殺しにされたらしいぜ。」
「知ってる。今朝、黒長から聞いた。病院送りだってな。今朝先公どもも騒いでた。」
「相当やばいな、それやった奴。」
「ああ、佐倉はかなり腕は立つ方だったしな。笹川も前確か闘ったことあったろ?」
「まあな。俺が勝ったけど。」
「あら竜平くん、あの時は随分ひどくやられてたじゃない?」
「うっせーな!勝ったのは俺なんだよ!関係ねえだろ!」
竜平はヅキの言葉にいちいちムキになって食ってかかっていたが、
充はそれが、佐倉を倒したという男への、底知れぬ不気味さに苛立っている
せいなのだと、薄々気付いていた。


「やべえよな...俺たちも。」
黒長などは、不安を隠しもしない。

充や竜平、黒長、ヅキの四人がその話題に興じている時、そう、丁度二限と
三限の間の十分休みも終わろうとしている時、完璧な重役出勤で「彼」
が登校して来た。

襟足の長い、特徴的なオールバックに、全く表情の読み取れない瞳を持つ男。

「あっ、ボス!おはようございます。」
真っ先に気付いた充が、その男に駆け寄った。
この男こそ、彼ら、通称桐山ファミリーの「ボス」こと桐山和雄である。
「おはよう」
充の挨拶に、桐山は機械的に返す。
充に続いて笹川、黒長が同じように挨拶すると、桐山はやはり同じように
答えた。

「あらあ、桐山くん、今日は随分遅かったじゃない?」
ヅキこと月岡にこう言われて、桐山は、
「朝、来る途中に高校生に絡まれたので、相手をしていたら、遅くなった。」
「まあ、でも桐山くんならそんな奴らどうってことなかったでしょう?」
「ああ、まとめて五分で片付いた」
それなら、遅刻の理由にならないじゃない?まあ桐山くんに絡むなんて、そいつら
よっぽどのおばかさんたちね。
「やっぱボスは凄えな...。」
黒長が感嘆したように言った。


「ところで桐山くん、さっきの休み時間、 佳澄 ちゃんが来てたわよ?」
「... 佳澄 が?」
桐山の無表情の顔が、その名前を聞いた途端、僅かに緩む。
もちろん、敏感なヅキはそれに気付いていた。
「何か用事があるみたいだったけど?」
「わかった。すまない」

そう言うと桐山はそのまま教室を出ていこうとした。
「ちょっと桐山くん、どこへ行くのよ。」
「... 佳澄 は、俺に用があると言っていたのだろう?」
「もう、三限目始まっちゃうわよ。 佳澄 ちゃん、次教室移動だし...。
またどうせ昼休みに会えるじゃない。」
「...そうか」
桐山は無表情のまま、自分の席に戻った。


しかしヅキは気付いていた。
桐山くん、何だか暗くなってるように見えるんだけど?
佳澄 ちゃんが会いに来てくれたのにいなかったから、寂しいのかしら?
彼は無表情だが、注意深くみると、雰囲気でなんとなくわかる。
もう、天下のボスも、 佳澄 ちゃんには敵わないみたいね?


佳澄 というのは、C組の 月村 佳澄 のことだ。
彼女は二年生の時、桐山と同じクラスで、桐山を恐れずに、対等に話せた
唯一の女子だった。顔も、女に厳しいヅキが認めるほど可愛い。
桐山は、彼女に興味を持ったらしい。

やはり同じクラスだったヅキは、そんな桐山の様子を興味深く見ていた。

桐山は、 佳澄 といる時、何かいつもと様子が違った。
しきりにこめかみに触れてみたり、落ち着かない動作をする。それでいて、表情
は全く変わっていないのだ。ヅキはそんな桐山に、「 佳澄 ちゃんのこと好きでしょ?」
と聞いてみたことがあったが、桐山は、「よくわからない」と言っただけだった。


しかし桐山が 佳澄 を「 佳澄 」と呼び、 佳澄 も桐山を「和雄」と名前で呼んでいる所や、
クラスが変わっても親しげに話し、一緒にお昼を食べる仲だという所を考えると、どうやらうまくいっているらしかった。
ヅキはこのカップル(?)を、微笑ましい気持ちで見守っていた。


そして昼休み。
桐山が他のメンバーと一緒に、何をするでもなく屋上でぼんやり空を眺めていると、
聞きなれた明るい声が響いてきた。
「みんな!おはよー!」
「おう、おはよう。」
「オッス、 月村 」
「おはよう!」
「あら 佳澄 ちゃん、もうお昼よ?」
「...あ、そっか。つい...」
天然ぶりを発揮しているこの少女が、桐山の想い人(?) 月村 佳澄 。
その肝心の桐山はというと、ドアを開けて入って来た彼女をぼんやりと見つめている。

「どうしたのー?和雄。」
桐山をファーストネームで呼べるのは、恐らく彼女と、桐山の両親位なものだろう。
「さっきは、すまなかった。」
「え?ああ、ううん。いいよ、大した用事じゃなかったし。」
「そうか」
桐山にとっては、用事よりむしろ 佳澄 が来てくれたことの方が重要なのだが、
佳澄 は全く気付いていないようだ。
「あー、お腹空いたー!みんな、お昼にしようよ!」
「おう!」
育ち盛りのファミリーの面々は、待ってましたとばかり各々の昼食を開きにかかる。
―桐山を除いて。
「あれ?和雄?ご飯食べないの?」
「...忘れてきた。」
桐山は淡々とそう言った。
「そうなの?可哀想―。じゃあ私のお弁当半分食べる?」
「ああ」

それをまたしても見守るヅキは突っ込みたい気持ちで一杯だった。
今月に入って七回目よ?桐山くん...。

桐山が三回目の「忘れてきた」という台詞を吐いた時、やっぱり
賢いヅキは気付いていた。
桐山は、 佳澄 の弁当を食べさせてもらいたいが為に、わざと弁当を
持ってこないのだと。
佳澄 も 佳澄 だ。普通気がつくものではないか?

「はい和雄、あーん」
そう言われて無表情のまま口を開き、 佳澄 からおかずを食べさせてもらうという
バカップルぶりを披露している桐山に、
充は「俺のボスが...」と嘆き、
竜平は「やっぱりボスも人の子だよな」と妙に安心し、
黒長は「いいなあ」なんてのんきに羨ましがっていた。
実際 佳澄 といる時の桐山は、どこか優しい、穏やかな顔をしていた。

いつも通りの、平和な時間がただ過ぎていくはずだった。

それは、突然の来訪者によって打ち破られた。
普段、ファミリーの縄張りみたいになっている屋上に、この時間近づく者など
ほとんどいないはずだった。

しかし、ふいにそのドアが、がちゃり、という音とともに開けられた。
ファミリーのメンバーたちは、はっとしたようにそちらに視線を集中させた。
先程までのどかに 佳澄 に弁当を食べさせてもらっていた桐山にも、いつもの
威圧感が戻っていた。

そこにいたのは、見慣れぬ少年だった。
校章から、三年生だということはわかったが、金色に脱色した髪にふわふわのフラッパー
パーマをかけ、左耳にはピアスを開けている。
この学校の制服を着ていなければ、恐らく誰も彼を中学生だとは思わないだろう。

「誰だよ、てめえ、見ねえ顔だな。」
笹川が、明らかに虚勢を張った声でそう尋ねたが、少年は笹川のことなど、全く気にも
留めていないようだった。
彼の、桐山とはまた違った、何を考えているのか全く読み取れないような瞳は、ただ一点を見つめていた。彼は、高くも低くも無い声で、ぽつりと言った。
佳澄 ...。」
「和雄!?」
そう驚いたように叫んだ 佳澄 の隣に居た桐山は、僅かに目を大きくして、 佳澄 と少年を
見比べた。
和雄-それは俺の名前。だが 佳澄 は、確かに目の前のあの少年に向けてそう呼んだ。


佳澄 ...一緒に来い。」
少年はふらふらとした足取りで、桐山と 佳澄 の居る方へと近づいてきた。
沼井は「てめえ...!」と言って立ち上がりかけて、息を呑んだ。
彼の、恐ろしく冷たい、容赦の無い瞳に。
恥ずかしながら、足がすくんで動けなかった。
それは、他のファミリーのメンバーも同じだった。
沼井をつまらなそうに一瞥すると、再び少年は 佳澄 の方へと歩み寄って来た。
「やだよ!今はみんなと食べてるんだから!」
佳澄 は全く恐れずに言った。
「関係無い」
少年の暗い目には、 佳澄 しか映っていない。


ついに、少年は桐山と 佳澄 の目の前まで来た。
桐山は、 佳澄 を自分の後ろまでさがらせて、いつもの恐ろしく冷たい目で少年を見上げた。
「...どけ。」
少年は先程よりやや低い、抑揚の無い声で言った。
佳澄 は、嫌がっている。」
桐山もどこか威圧感のある声でそう返す。
佳澄 は、困ったような顔をして二人を見上げていた。

少年は、そんな桐山の様子を見ても顔色一つ変えていない。
ただ、冷たい声で言った。
「邪魔だ」
少年から殺気が放たれた。何の前触れも無く。
次の瞬間には、恐ろしいスピードで、少年の拳が桐山の顔面向けて
迫ってきていた。恐らく、相手が桐山でなければ、その一撃で気絶しかねない様な、
強力な一撃だった。


しかし、桐山はその少年の拳を、これもまた恐ろしいスピードで顔の前に出した右手で
受け止めていた。こんな状況でも、やはり顔色一つ変えていない。


不意打ちした少年は、これには少し意外だったらしく、瞬きをして受け止められた自分の右の拳を見つめていたが―次の瞬間、ニヤリと笑い、今度は左の拳で―桐山の腹をめがけて拳を繰り出した。
「やめて―!」
その時、 佳澄 が悲痛な声を上げた。少年はぴたりと拳を止めて、 佳澄 を見た。そしてゆっくりと桐山の方に視線を戻すと、桐山はまたもや、少年の狙っていた腹の前に左手を構えていた。
「...やるな」
少年はそう言って、またニヤリと笑った。殺気が消えたので、桐山は少年の手を放し、
少年を無表情で見つめていた。
「和雄!何てことするの!」
佳澄 が叫んだ。 佳澄 には珍しく、本気で怒っているようだった。少年はそんな 佳澄 を見て、
僅かに眉を顰める。
「...俺は、お前と一緒に居たかっただけだ。」
そう言った少年の目は、先程とは別人のように弱々しく、縋るようなものに変わっていた。
「そんな顔したって許さないよ!今日はもう口聞かないから!」

佳澄 にそう言われた少年は、しょんぼりしたように首を垂れたが、それも一瞬、次に顔を上げた時には、先程と同じ冷たい表情に戻っていた。
そして、その表情のまま、 佳澄 の隣の桐山へと視線を移した。
視線がぶつかる。
「お前。...名前は」
「桐山和雄」
少年の問いに、桐山は滞りなく答えた。
少年はまたニヤリと笑った。
「...偶然だな。俺も、桐山和雄という」
桐山和雄と名乗った少年は、またフラフラと立ち上がった。目は鋭く桐山を見つめたまま。
「今日はこれで引いておく。」


そういうと、くるりと背を向けたまま、ドアの向こうへと姿を消していった。

桐山も、ファミリーのメンバーも、桐山和雄が姿を消した方向を暫くの間眺めていた。



つづく




後書き  ああ、何か凄いもん書いたような...。これはドリームと言えるのでしょうか。
主人公、出番少なすぎ。ボスもヅキも別人。ああ...何か無理して甘くしようとした形跡が。前半ってとばしてもいい気がします。つまんないし。
今回は原作桐山対映画桐山の、主人公を巡る争いってことで。一度この二人を同時に出して見たかったんです。すいません。次回は主人公一杯でる予定です。
私はどっちかというと原作の桐山の方が好きなんですが、彼を書くと必ず偽になります。(感情ないはずだし)映画の方が笑ったりするから楽なんですが、やはり偽に。
こんなわけわかんない話ですが、最後までお付き合いください...




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