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『対決』

「行って来ます」
「行ってらっしゃい、気をつけてね。ちゃんとおみやげ持った?」
「うん」

佳澄 はいつもより少し大人びた服装と髪型で、見送りに来た母親に笑顔を向けた。
「... 佳澄 、どこに行くんだ?」
今日は日曜日、大抵は昼過ぎまで眠っている同居人― 佳澄 の従姉弟の桐山和雄は、
佳澄 がいつもより早く起きて騒がしくしていたので目が覚めてしまい、眠い目を擦りつつ、パジャマ姿で階段を降りて来た。
「和雄の家。」
佳澄 の答えに、一気にまだ残っていた和雄の眠気が吹き飛んだ。
「―あいつの?」
さっきまでの迫力の無さが嘘の様に、和雄の切れ長の目が鋭く釣りあがる。
和雄は一気に階段を駆け降りて来て、玄関に居る 佳澄 の腕を掴んだ。
「ちょっと和雄、何するの、離してよ。」
「行くな」
とても強い力で掴まれたので、 佳澄 はちょっと眉を顰めて、「和雄、痛い。離して」
と小さな声で言った。
「...ごめん」
佳澄 を痛がったのがショックだった様で、和雄は慌てて手を離すと、悲しそうに下を向いた。
佳澄 はそんな和雄が少しだけかわいそうに見えたらしく、「もういいよ。怒ってないから」
と一言。
和雄は 佳澄 が許してくれたのが嬉しくて、顔を上げて 佳澄 を見たが、そこにもう 佳澄 はいなかった。
「... 佳澄 ...?」
きょとんとしている和雄に、 佳澄 の母親が気の毒そうに告げる。
「和雄くん、もう 佳澄 、出て行ったわよ」

佳澄 は早足で桐山の家を目指していた。
...和雄に構ってたら、遅くなっちゃったよ。和雄、怒ってるかな。
時計は約束の時間を数分過ぎた位置を指していた。
急がないと...。
焦った 佳澄 は走りだした。

その時、突然 佳澄 の正面から車が飛び出して来た。
「あっ...」
前をよく見ていなかった。
佳澄 は道路の真ん中を歩いていたのだ。

佳澄 は突然の事で、身体を動かす事が出来なかった。
思わず目をつむった。
次の瞬間、
佳澄 の左腕が掴まれ、ぐいっと歩道側に引っ張られた。
車はクラクションを鳴らしながら通り過ぎた。

佳澄 は、自分の腕を掴んだ人物を見て、驚きのあまり目を丸くした。
「和雄...」
「遅いから、何かあったのかと思って探しに来たんだが、危ない所だったな」
そこに居たのは、かっちりとした感じの、私服姿の桐山。
「ごめん...和雄。ありがと。」
「いや。 佳澄 が無事ならよかった」
佳澄 は顔を真っ赤にして俯いた。
桐山はそんな 佳澄 を無表情で見ている。
「ごめんね。遅刻しちゃって。怒ってる?」
「別に、怒ってはいない。もう行こう。茶を用意させている」
「本当?ごめんなんか気使わせちゃって」
佳澄 は笑顔で言った。
「行こう、和雄」

桐山はああ、と言って視線を 佳澄 から、後ろの曲がり角のあたりに移した。
そして少しだけ眉を顰めた。
「そこにいるのは、誰かな」

「え?」
佳澄 がびっくりしてそちらに視線を向けると、パジャマ姿のままの
和雄がそこからこちらを見ていた。
佳澄 と目が合うと、びくりとして目を逸らす。
「和雄...ついてきちゃったの?しかもそんな格好で!」
和雄は黙って、下を向いていた。
さっき 佳澄 を助けようとして出遅れた事もあって、ばつの悪そうな顔をしている。
佳澄 ...帰ろう」
「嫌!」

和雄は 佳澄 に思いっきり嫌な顔をされてショックを受けている様だった。
「今日は和雄の家で一緒に宿題やるって前から約束してたんだから。和雄はさっさと一人で帰ってよ」
佳澄 のとどめの一言が和雄を打ちのめした。
佳澄 は桐山の方を見て、「行こう、和雄」と言うと、固まったままの和雄を
無視して、桐山と一緒に歩いて行った。


桐山がちらりと和雄の方を振り返った。
和雄が殺意のみなぎった瞳で見つめていた。
隣に 佳澄 が居なかったら、間違いなく桐山に殴りかかっていただろう。
佳澄 が怒るから、仕方なく我慢していた。

桐山は特に表情を変えずにその和雄の視線から目を逸らした。
佳澄 に呼ばれたからだ。
桐山と 佳澄 は楽しげに話している。

「あいつ...」
気に入らない。
なんで 佳澄 はあんな奴と...
和雄は眉を顰めた。
その形相は中学生とは思えない程の迫力があったのだが、彼の間抜けな服装が
それを全く意味のないものにしてしまっていた。

このままでは、済まさない。
和雄は唇を噛んだ。
このまま追っていきたい気持ちはやまやまだったが、
「...とりあえず、戻るか」
また 佳澄 にあきれられてしまっては情けない。

和雄は踵を返した。
何人かの通行人が奇妙なものを見るような目で和雄を見ていたが、
和雄が睨み返すと、慌てて散って行った。

その頃、 佳澄 と桐山は、桐山邸の豪華なテラスでティータイムを満喫(?)していた。
「お茶のおかわりはどうなさいますか?」
「焼きたてのケーキが仕上がりましたがいかがですか」
次々に使用人が豪華なケーキを運び、高そうな紅茶を何種類も持って来た。
「あ...もう平気です...」
佳澄 はすっかり面食らってしまっていた。
もうケーキは三個食べたし、紅茶も四杯飲んでしまった。

「やっぱ凄いね、和雄の家って」
「そうか?」
桐山は自分の家の事だから、もう慣れてしまっているのだろう。
優雅に紅茶をすすっている。
「でも来れてよかった。楽しみにしてたんだ」
「そうか」
佳澄 の笑顔を見て桐山は少しだけ目を細めた。

二人だけの幸せな時間(少なくとも桐山にとってはそうだろう)が静かに流れていった。

二人は知らなかった。
これから起こるとんでもない事件を。

そしてもちろんそれを引き起こすのは...



つづく



後書き

久々更新。完全ギャグ。安藤キリ―壊れすぎですみません(反省)。
桐山の出番少なくてすみません。
次回はいっぱい出てきますよ。
スランプ抜けたら面白く書けるかもしれないのにな。
では続きも見てやって下さい(切実)。



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