『対決』

、もう部屋に行くか」
紅茶を飲み終えた桐山が に訊く。

「うん。和雄の部屋見たい」
は目を輝かせていた。
桐山の部屋を見ることが楽しみだったらしい。
桐山はそんな の様子を見て、少し目を細めた。
「ああ、構わない」
「本当?」
はとびきり嬉しそうな顔を桐山に向けた。
桐山の胸が高鳴る。
を家に呼んで良かったと思う。
は喜んでくれた。
滅多に桐山は自宅に人を呼ぶような事はしないのだが。
の喜ぶ顔が見たかった気がしたから。

桐山はすっと椅子から立ち上がり、「行こう」と に声をかけた。
「うん。あ、ごちそうさまでした!おいしかったです」
食器を片付けに来た使用人に軽くおじぎをすると、
も立ち上がった。

「和雄様」
その時、黒づくめの、サングラスの男が一人近づいてきて、桐山に耳打ちした。
はびっくりした。
うわ...なんだかドラマに出てくる人みたいだよ...。本当にああいう人って
いるもんなんだ。普通に。(桐山の家は普通ではないだろうが)

男の言葉に、桐山は僅かに眉を顰めた。
「...侵入者?」
「ええ、屋敷のセキュリティシステムに反応が」
には聞えない様に小さな声で桐山は尋ねた。
「それで、どんなやつが入って来たかはわかっているのか?」
「防犯カメラに映っていたのは、金髪の少年でした。」
桐山の眉がほんの少し持ち上がった。
「...」
「何かお心当たりでも?」
「ああ。心配いらない。泳がせておけ。俺一人でなんとかなる」
「わかりました。...しかし、いつでもご連絡していただければ」
「ああ。わかっている」
桐山が目で合図すると、男は桐山と に一礼して、早足で去って行った。

「どうしたの?和雄。何かあったの?」
「いや。大した事ではない。それより、早く行こう」
「...?うん」

何か和雄怖い...
何で怒ってるんだろ?
スタスタと歩いていく桐山の後を追いながら、
は首を傾げた。

その侵入者とはもちろん和雄だ。
和雄は桐山邸の庭に一人佇んでいた。
黒いレザージャケットを始め、全身を黒で固めている。
黙っていれば、かなり絵になる姿。
行きがけに の母からは「あら和雄君、コンサートにでも行くの?」
と言われてしまったが、まあ、ともかく。
和雄の目的は一つだった。
この家から を連れ帰る。
あいつが邪魔する様なら、その時は。
和雄は右手の拳を握り締め、不敵な笑みを浮かべた。

「ここだ」
「わー、すごい!」
桐山が部屋のドアを開けると、 は感嘆の声を上げた。

「私の部屋、五個分位はあるよ...」
は部屋を一望して、溜息を付く。
広いだけでなく、家具も高級そうなもので揃えられている。
テレビに出ていた一流ホテルのロイヤルスイートみたいな部屋だ。
、そこに座っていてくれ。今、教科書を持って来る」
「あ、うん」
はおずおずと、レザーのソファに腰を下ろした。
桐山は部屋の端の本棚の方まで行った様だ。
和雄...いつもこんな所で寝てるんだ...
はもう一度、部屋を見回した。
すごいな。でも、こんな広い所で一人で眠るのは寂しい気がする。
は桐山の後姿を見た。
和雄は、寂しくないのかな?


すぐに桐山は戻って来た。
机の上にノートと教科書を置くと、
「もう始めるか?」と に訊く。
はちょっと考える様にした後、「少し、話してからがいい」
と答えた。
「構わない」
桐山も答える。

「和雄の部屋ってすごいね。あこがれるよ」
は何故か桐山の顔を正面からは見ずにそう言った。
桐山はそんな を静かに見ていたが、少しして、言った。
「気に入ったのなら、いつでも来るといい」
「え?」
は顔を上げた。
その顔は真っ赤に染まっている。
桐山は を真っ直ぐに見つめて、言った。
「家の者以外で俺の部屋に入れたのは、 が初めてだ」

は頬を紅く染めたまま、桐山を見つめた。
桐山は無表情のままだ。
「私が、初めて...?」
「ああ」
桐山が頷いた。
は戸惑った様に視線を彷徨わせた。
「それって...」
桐山が口を開きかけた、その時だった。

きいいいいいいい

とても不快な音が響いた。

は耳を塞いだ。
「ちょっと...何これ...」
桐山は何もせず黙っていたが、その音が暫く続くと、
無表情のまま、すっと両手で自分の耳を塞いだ。
音のする方へ目を向けた。
どうやらその不快な音の発生源は、窓の様だ。
窓の外。
桐山は確かに見た。
あの金髪の桐山和雄が、凄まじい形相でこちらを見つめているのを。
...ここは三階なんだが。
そう思ったが、口には出さなかった。

「...随分と、姑息な手段を使うものだな」
あくまで落ち着いた声で、桐山は呟いた。
「え?何か言った和雄?」
音がやんだので、 は耳にあてた手を離して桐山に尋ねる。
「いや」
桐山は一言そう答えた。

「何だったんだろうね?今の音」
「...わからない」

もちろん桐山は気付いていた。
あの音は、和雄が思いっきり窓ガラスをひっかいた音だ。
もう一度窓に目を向けた時にはもう、そこに和雄の姿は
なかった。
...次はどこから来るか。

桐山は隣の に目をやり、そして、思った。
どこから、どんな手段をつかって来ようとも、
決して は渡さないと。

桐山には珍しく、明確な目的が出来た。
あいつに は、渡さない。

つづく


後書き:キリーが格好悪い。壊れすぎ。もうちょっと格好良くしたいですが。
また続編で。桐山とも戦う事になるし。
もう少し我慢してお付き合い頂けると嬉しいです。


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