『対決』

はふらふらと学校に向かっていた。
昨日の夜から何も食べていないし、ろくに眠れていない。
もう昼休みは終わっている時間。

「どうしよう...」
は昨日の事を思い出して頬を紅くした。

「俺の事は、どう思っているんだ?」
昨日、桐山の家に居る時。
帰ろうとした に、桐山がそう尋ねた。
和雄の事をどう思っているか、そう訊いた後で。

はどう答えていいかわからなくなった。
思わず、訊き返した。
「どうして、そんな事訊くの?和雄」
「以前、月岡に言われた事がある。...俺が を好きなのではないかと」

はその言葉に、思わず固まった。
和雄が、私を好き...?

冗談、だよね?
は桐山の顔を見た。
桐山は無表情だった。
冗談を言っているようにはとても見えない、
真剣ともとれる目つき。

桐山は を真っ直ぐ見たまま、言った。
「よくわからなかったんだ。好きになると云う気持ちが。ただ、 と居ると居心地が良かった。 と一緒に居たいと思った。...好きというのは、そういう気持ちらしい」

桐山は静かに言った。
があいつと居る所を見ると、胸が苦しくなるんだ」

はただただ驚いていた。
桐山がそんな事を思って居たなんて。
考えも、しなかった。
桐山は自分にとって...。
自分にとって?

は戸惑いを隠せなかった。
桐山から、視線を外した。

桐山が、 の方に近づいて来た。
の隣に腰を降ろす。
一気に の心拍数が、上がった。


桐山の声が、先程より近くで聞こえる。
当たり前の事なのだけれど。
それでも。
いつも意識していなかった、そんな他愛の無い事が。

はおそるおそる桐山を見上げた。
桐山はどこか優しい顔をしている様に思えた。

の気持ちを、聞かせてくれないかな」
桐山のよく通る声が耳に凛と響いた。

は、ますます、戸惑った。

思わず、言ってしまった。
「わ、私、そういうの、まだよくわかんない、よ」

少し強い口調で言ってしまった。
「和雄の...事も...今目の前にいる和雄の事も...そんな風に考えた事、なかったもん」

半分は、嘘だった。
言ってしまってから、 は後悔した。
「そうか...」

ははっとした。
桐山の声に、力が無い様に思えた。
その無表情の顔も、どこか寂しそうで。

はそんな桐山の顔を見たのは初めてだった。
「和雄...」
は桐山を呼んだ。
桐山が少しだけ眉を持ち上げた。

「ねえ、もう少しだけ、待ってくれないかな」
がそう言うと、桐山は少し驚いた様だった。

「私、もう少し、考えたいの。二人の和雄の事...」
桐山に言われるまで、考えた事がなかった。
弟の様な和雄。
自分にただなついているだけだと思って居た、和雄。
和雄は、どうして自分になついていた?
その理由を考えた事もなかった。

考えたいと、思った。

桐山は の話を、ただ静かに聞いていたが、暫くして、言った。
「焦らなくていい」

が桐山を見上げると、桐山はその目線をそっと伏せて、言った。
「俺は、 の気持ちに従うよ」

それから、桐山は をそっと抱きしめたのだ。

「いつでも、待っている」
桐山の少し優しい声を聞きながら、 は胸がひどく高鳴るのを感じていた。

それから家に帰るまでの事を、おぼろげにしか思い出せない。
確か、家のすぐ傍まで、
桐山が送ってくれて。
その間は、二人とも何も話さなくて。

桐山と別れた後、
ふらふらと家に入って。
それから、ずっと。
悩み続けていた様な気がした。

食事も睡眠もろくに取らずに。
そうして悩んだ結果。

は、答えを出したのだ。

「もう、決めたんだから」
何もびくびくする必要など無い。
けれど。

「和雄、どう思うかな...」
それを思うと、気が気でなかった。

もう校門はすぐ目の前にあった。

その頃、屋上では。
相変らず桐山と和雄の睨みあいが続いていた。

の気持ち、と言ったな」
「ああ」

和雄の問いに桐山は淡々と答えた。
「自信が、あるのか。 がお前を選ぶと」

和雄は少し自分の声に力がないのを感じていた。
自分は にとってただの弟みたいな存在でしかない。

...もう、負けている、その事に昨日気がついてしまった。
でも、認めたくなかった。

目の前の同じ名前の男。
自分がこんなに苦しんでいるのに、
相手は少しも動じた様子を見せない。
それが悔しく思われた。
相手に余裕があるようで。

桐山は和雄の問いにすぐには答えなかった。
少ししてから、桐山は和雄を真っ直ぐ見つめて、言った。
「いや」
続けた。
「自信は、ない」

和雄は驚きのあまり目を丸くした。

「こんなに不安を感じているのは、初めてだ。眠れなかったのも、初めてだ。落ち着けなくて、こんなに早く学校に来てしまったのも、初めてだ」

桐山はそう淡々と言った。
全く感情の篭もらない機械的な声で。
和雄は戸惑った。

「...全然、そう見えないぞ」
「俺は元々、表情が表に出にくいらしい。 にも言われた」

和雄、どうして笑わないの?
笑った方が楽しいよ、和雄もみんなも。

「...。」
に昔、似たような事を言われた事があった気がする。
それから「楽しい」と思った時には笑うようにした。
そのうちに自然と笑えるようになった。
ただし、 と居る時が多かったけれど。

「...お前は、 に会ってから、変わったんだな」
「ああ」

和雄の問いに桐山は相変らず感情の篭もらない声で言った。
ただ、そう言った桐山の表情はどこか穏やかだった。

「...俺と同じだな...」
和雄はぽつりと言った。
その和雄の表情も、どこか優しい。

桐山はほんの僅かに眉を持ち上げた。

その時、
二人の後方でがちゃり、と扉の開く音がした。

二人ははっとして振り向いた。

そこには、 が立っていた。
少し頬を染めた が。

...」
和雄は の名を呼んだ。

桐山はただ静かに、 を見ていた。
は、ゆっくりとこちらに歩み寄って来た。

つづく

後書き:ついに次回ラストです。設定最初と最後変わりまくっている上、矛盾だらけで滅茶苦茶の話ですが...なんとかここまで来ました。
最後まで見守ってやって下さい。
次回の更新はいつでしょうか...なるべく早く(汗)。


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