encounter
突然の出来事だった。
塾帰り、
は車に乗った怪しい二人組の男に、「ちょっとおじさんたちといいことして遊ばない?」と声をかけられ、腕を掴まれた。
「ちょっと…やめて下さい!」
一生懸命その手を振り払おうとしたが、意外とそのオヤジの力は強かった。
「おとなしくおいでー、後悔はさせないよー」
「いやです、やめて、誰か助けてー!」
人通りの少ない道、誰も助けてくれる人などいない。
は、ああ、このまま連れていかれちゃうのか...と半ば諦めかけていたのだが。
「その人を、放してくれないか」
突然、どこか威圧感のある声が、りんと
の耳に響いて来た。
え?
声のした方を振り向いた。
そこに立っていたのは、
優に181センチはあるだろう、長身で細身の、男子学生。
後ろ髪の長い、特徴的なオールバックに、一房だけ前髪を垂らしている。
恐ろしい程整った顔立ち。
「ああ?今何て言ったのかな?」
オヤジはあからさまに馬鹿にしたような口調で、その学生を睨みながら、訊いた。
学生は淡々と答えた。
「その人を、放してくれないか。今そう言った...」
「うるせえ、ひっこんでやがれ!邪魔するな」
オヤジは頭に血が昇ったらしく、顔を真っ赤にして、少年に向かって来た。
拳はもちろんグーになっている。
は声を立てる事も出来ずにただ、その様子を見ているだけだった。
そのオールバックの男子学生は、無表情のまま、学生服を脱ぎ、思いきり宙へと放った。
そして、鞄の中からすっと分厚い本を取り出した。
信じられない事に、
学生は、向かって来たオヤジの顔面を、思いっきりその本で殴りつけた。
「ぐえっ!」
今度は、長い足で、踵落としを決めた。
オヤジはだらしなく泡を吹きながら、後ろに倒れた。
「な…」
驚いたもう一人の男は、思わず
の肩を掴んでいた手を離す。
それから、一呼吸の間の出来事だった。
男子学生が、男の間合に入り、持っていた本をその男の顎に向けておもいきり跳ね上げた。
男は声も無く、やはり後ろに倒れた。
「あ…」
は呆然としていた。
目の前で一瞬にして起こった出来事に、ただただ驚いていた。
学生が、此方を向いた。
はびくりとした。
ばさり。
宙に放られていた学生服が、丁度いいタイミングで、
彼の肩に落ちてきた。
何だか「装着された」ようにも見えた。
「怪我はないかい?」
学生は、機械の様な単調な声で訊いた。
「は、はい」
はおどおどしながら言った。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます...」
「いや、大したことはしていない」
学生はそう言うと、じっと
を見つめた。
は思わず顔を紅くした。
オールバックで、後ろ髪が長くて、しかも前髪が一本はみだしている。
変な髪形だけど。
とても、格好良かった。
学生が、ぽつりと言った。
「名前は?」
「―え?」
「名前は、何と言うんだ?」
学生は淡々とした口調で訊いた。
は、少し頬を紅く染めながら、答えた。
「
…
です」
学生はそれを聞くと、「そうか」と一言言った。
「あの…あなたは」
はちょっとおどおどしながら訊いた。
学生は僅かに目を伏せてから、
を見て、答えた。
「桐山…桐山和雄」
「桐山…さん?」
どこかで、聞いた名前だった。
「あの…もしかして…B組の…」
「?俺は城岩中の三年B組にいるが?」
「じゃ、じゃあやっぱり…!」
「桐山和雄」といえば、
ほとんどこの地域一帯で伝説となっている不良グループ、
「桐山ファミリー」のボスだ。
彼が同じ学校の隣のクラスに居る事は、知っていた。
三年B組。
変なクラスだと思っていた。
髪の長い、怪しいカンフーやってる人とか、
やたらと語尾にハートをつけたがる人(なんでもてるのかな)、
どう見てもホステスみたいな女の子、
何年留年してるのか怪しい筋肉質な人。
中学生離れした人だらけのクラス。
この人なら、
あのクラスに居ても不思議じゃない、全然。
思わず
はそう思ってしまった。
「
さん」
桐山が突然、
を呼んだ。
ははっとして、顔を上げた。
びくびくしながら、言った。
「つ、
でいいです」
「では、俺も桐山でいい」
は桐山の顔を見た。
ど、どうしよう、なんか怒ってるみたいだけど…。
「な、何ですか?桐山くん…」
「今度は、いつ会えるかな」
「あ、隣のクラスだから、いつでも…」
「そうなのかい?」
「は、はい」
「そうか、それならよかった」
桐山は特に表情を変えず、淡々と言った。
どうして、そんな事聞くんだろう?
が頭に疑問符を浮かべていると、
「ボスー!」
やたら明るい声が聞こえて来た。
がびっくりしてそちらを向くと、
短ランの、パンチパーマの男が息を切らしながら走ってきた。
「探したっすよ、ボス」
「充か」
な、何だろこの人…やたら目が輝いてるし。
パンチパーマなんて今時はやらな…。
充と呼ばれたパンチパーマの男は、そのきらきらと輝く(!)瞳で
を不思議そうに見た。
ちょ、ちょっと、その目で見ないでよ…しかもなんかこの人…口元に血が…?
「ボス、こいつ…いや、この人、ボスの…女っすか?」
「いや」
桐山は、戸惑っている
の方に目を移した。
「これから、なる予定なんだが」
桐山はしれっとそう言った。
―え?
い、今なんて?
は思わず桐山を見上げた。
181センチの身長は、半端じゃない。
桐山は首をククッ、と機械的に傾けて、
を見た。
「
さんさえ嫌でなければ、そうしたいんだが、駄目かな」
は顔を真っ赤にした。
思わず口走った。
「えっ、そ、そんな…私なんかで良ければ」
嫌ではなかった。
格好いい。
少し、いや、凄く、変わった人だとは思うけど。
この人、格好いい。
桐山は、「そうか」と言うと、突然
の手を取った。
「ではこれから、
と呼んでもいいかな」
「は、はい…」
「
、敬語は使わなくていい。俺の事は、和雄と呼んでくれ」
は顔を真っ赤にした。
桐山はそんな
をじっと見つめたまま、言った。
「これから宜しく頼む」
はこれ以上ないほど、顔を真っ赤にした。
「ボス、よかったっすね…これで…」
パンチパーマの男は目を潤ませていた。
「はい…こちらこそ」
は桐山を見上げて、言った。
何だかとんでもない相手を選んでしまった気がするけれど。
今はとても幸せな気持ちなので、
はもうどうでもいいと思った。
翌日から、
は、以前なら近づくのも躊躇っていた、
「中学生離れした人たちばっかりの変なクラス」にほとんど毎日のように
通うようになったのだった。
おわり
後書き:10000ヒット記念フリー夢、YC桐山和雄夢です。いかがでしたでしょうか。
以前からネタはあったのですがついに公開。笑えないギャグ?とにかくあの漫画は突っ込みどころ満載ですからね。また書きたいです。YC桐山知らない方は語り部屋かYCを是非見てください。YCは許せない所もありますが面白いです。
これはフリー作品なのでお持ち帰り、転載自由です。その際もしよかったら掲示板かメールでお知らせくださると嬉しいです。ここまで読んで下さってありがとうございました。
戻る