「桐山くーん、今度の日曜暇?」

終礼も終わり、鞄を手にして今にも帰ろうとしている桐山和雄に、
が声をかけた。

「特に予定は無いが、何かあるのか?」
桐山はおっとりとした口調で答えた。

「うちで誕生日会やらない?」
はそう笑顔で言った。

その答えに、桐山はほんの僅かに眉を上げた。
「… の誕生日は、確かもう過ぎたと思ったが」
「違う違う!」

は慌てた様にそう言い―、それから、桐山を上目使いに見上げた。
桐山はそんなに背が高い方ではないが、 は150センチにやっと届く位の
身長なので、どうしてもそうなってしまうのだ。

「桐山くんの、誕生日会だよ」
「…俺の?」
「うん」
は嬉しそうに頷いた。

pecial day

そう言えば、前に「桐山くんの誕生日っていつなの?」
に聞かれた事があった。
桐山が答えると、 は「え?あと1か月位しかないんだ!」
と驚いた様に言っていた。
その時桐山は、何故 が自分の誕生日などを聞いたのかが、
よくわからなかったのだが。

「日曜日、うちお父さんもお母さんも旅行行っちゃうし、ちょうどいいと
思って。沼井くんたちも呼ぶからさ。駄目かな?」

桐山は不思議に思った。
どうして は、自分の誕生日会などをやろうとするのだろう。
自身の誕生日会を開くというのなら、わかる。
しかし は自分の誕生日の時には、特に何もしなかった。
何故だろうか?
だが、別に拒む理由も見当たらない。
「俺は別に構わない」
「本当?よかったー!」
はとても嬉しそうにそう言った。
桐山はそんな をまだ不思議そうに見ていたがーやがてぽつりと言った。
「俺は何をすればいいのかな」
「え?」
桐山は生真面目な顔をして、言った。
「何か、持っていくものなのだろう?その、誕生日会というものは」
は驚いた様に瞬きして、桐山を見た。
桐山も を見ていた。
は、微笑した。
「ううん。桐山くんは何も持って行かなくていいんだよ。だって、主役は桐山くんだから」
「そういうものなのか?」
「うん」
桐山はまだよくわからない、といった顔をしていた。


それが、桐山の誕生日。
日曜日は、その一日前、
だった。

土曜日の夜。
は普段見慣れないレシピを片手に、キッチンで泡立て器と格闘していた。
「あ…ちょっと砂糖入れすぎたかな...」
どうやら分量を間違えた様だ。
少しの間考えた後、 は「まあ、大丈夫だよね、これ位」
という結論を出すに至った。

「明日、桐山くん喜んでくれるかな」

キッチンと繋がっているリビングのテーブルに置かれた紙包みに目を移すと、
は微笑した。
日曜日の昼、桐山を始めとする桐山ファミリーのメンバーは、ほぼ時間通りに の家の前に集合した。

待ち合わせて来たのは桐山と充だけだったのだが、普段は遅刻魔の笹川や黒長、それにヅキも遅れず来た所を見ると、今日の事を余程楽しみにしていたと見える。

桐山が、 の家のインターホンのスイッチを押した。
すぐに明るい返事が返ってきた。
「はーい」
「…俺だ。他のやつも皆、揃っている」
「今出まーすv」
廊下を走る音が聞こえ、がちゃりと鍵が開く音がして、 がドアを開けた。
「みんな、いらっしゃい。上がって上がって!」
「お邪魔します」
「邪魔するな」
「お邪魔します」
「邪魔するぜ」
「お邪魔するわv」
スタスタと の後に付いていく桐山と、その桐山に慌てて付いていく充、笹川、黒長。
ヅキだけは興味深そうに の家の中の様子を観察して、「合格よv ちゃんv」と一人呟いた(何が)。

は五人を、少し広めのリビングに案内した。
「おっ、何か、すげえ美味そうな匂いする」
「本当だ!」
充と黒長が嬉しそうにそう言った。

、何か手伝う事はあるかな」
台所に一人立つ に、桐山が声をかけた。
「うん。平気だよ。桐山くんはゆっくりしてて。ね?」
「わかった」
にそう言われて、桐山が席に戻ると、ファミリーのメンバーたちが無邪気に話しあっては笑っていた。
桐山は黙ったまま、四人を見、そして台所にいる を見た。
とてもにぎやかな食卓。
…こういうのは、初めてだな。
桐山はふと思った。
去年も、
その前の年も、
そのずっと前の年も、
こんな風ににぎやかな席で、誕生日を祝ってもらった記憶は、無い。

もう一度四人を見、 を見た。
言い知れぬ感覚が、こめかみに生じた。

「ボス、飲み物何がいい?」
突然充がそう訊いて来たので、桐山ははっと我に返る。
「何があるんだ?」
「コーラとウーロンとオレンジ」
「では、ウーロン茶を」
「オッケー!」

目の前でグラスにウーロン茶が注がれていくのを、桐山は静かに見ていた。

隣にいるヅキが、「 ちゃーん、お酒はないの?」と声を上げた。
「駄目だよー、ヅキちゃんまだ未成年でしょ?」
「もう、堅い事いいっこなしよ?」

見る見る頬を膨らませるヅキ。
それを見て笑う笹川と黒長。

桐山は、ただそれを静かに、無表情で見ていた。

「お待たせ―!」

が焼きたてのケーキを運んで来た。
「おお、美味そうだなーv」
充が目を輝かせた。
充はこう見えて、実は甘いものに目がない。

ケーキには、十四本の蝋燭が立てられていた。
ケーキを机に置くと、 が蝋燭に一本ずつ火を灯していく。

色とりどりの蝋燭全てに火が灯された。

「桐山くん、お誕生日、おめでとう」
が明るく微笑んで言った。
「ボス、誕生日おめでとう」
「おめでとう、ボス」
「ボス、おめでとう」
「おめでとうv桐山くんv」
の後に、四人が続けた。

桐山は少し戸惑った様に瞬きをしたが、やがて、静かに言った。
「ありがとう」

五人が笑顔で拍手した。
「じゃあ桐山くん、火を消して?」
に促され、桐山が火を吹き消す。
一気に火が消えた。

「さすがボスーv」

充が感嘆した様にそう言った。

やがて、
ケーキを食べ始めて、桐山を除く全員が思った事。
…あ…甘い!てゆうか…甘すぎ。
はしまった、という顔をしていた。
昨日砂糖を入れすぎた事を思い出す。

「う…うめえよ、 。な、みんな」
「お、おお。」
「ええ、おいしい、わよ。 ちゃん」

みんなのぎこちない態度に、 は内心ごめん、と思いながらも、
「そ、そう、ありがと…」
苦笑いしつつそう答えるしかなかった。
その時、黙々と食べているだけだった桐山が、口を開いた。
「悪くないな」

五人が一斉に、桐山を振り返った。
信じられない様な顔で。

「ほ、本当?」
「ああ、出来ればもう一人分、もらいたいんだが」
どうやら桐山は充以上に甘党だったらしい。

結局残りのケーキは全て、桐山の腹に収まる事となった。

ケーキを食べ終えた後、五人はそれぞれ桐山に自分が持って来たプレゼントを渡した。
みんな自分なりに一生懸命選んで来た様だ。
ヅキだけは、何だか怪しい柄の包装紙に包まれた箱を渡して、「あとでひとりの時にゆっくり見てねv」などと言って、みんなを怯えさせたが(桐山は勿論無表情で受け取っただけだったが)。

「あとこれ、充君と私から」
がそう言って、あまり大きくない紙包みを桐山に差し出した。
桐山は少しだけ眉を上げて、「二人から?」と、充と を交互に見た。
は笑顔で頷いたが、充は少し照れている様だった。
「二人で1か月おこづかい貯めて、一緒に選んだんだよね、充くんv」
「よせよ…」
桐山はそんな二人の様子を、ただ静かに見ているだけだったが、暫くして言った。
「開けても、いいかな」
「どうぞーv」
桐山はそっと紙包みを開いた。
装飾を解いていくと、小さな箱が出て来た。
それも、開いた。
そこに入っていたのはブランドものの腕時計だった。
中学生二人の小遣いでは、おそらく1か月分全てつぎ込まなければ買えないだろうと思われる、そんな時計。
桐山はこれより高い時計はいくらでも持っていたのだが。

桐山は静かに時計を見つめていた。
そして、ぽつりと言った。
「ありがとう。大切にするよ」

緊張して桐山を見ていた と充は、桐山の答えを聞いた途端、顔を緩ませて、同時に言った。
「よかったー!気に入ってもらえて!」

そう言ってから、思わず二人は顔を見合わせる。
すぐに、笑った。
他の三人も釣られて笑う。
桐山だけが、笑わずに、不思議そうに五人の様子を見ていた。

楽しい時間はあっという間に過ぎる。
気がつけば、もうすっかり夜になってしまっていた。

桐山を除いた四人は帰っていった。
どうやら少し気を利かせた様だ。

が、食器を洗いながら、ソファに座った桐山に声をかけた。
「今日、楽しかった?」
「ああ」
「よかったー。桐山くんがそう言ってくれると、凄い嬉しい」
「何故だ?」
「…何でだろう?よくわかんないけど」
の頬が僅かに紅く染まっている。
「そうか」

がリビングに戻って来て、桐山の隣に座った。

「前桐山くん、こういう事やったことない、って言ってたよね?」
「ああ。今まで、その日が、特別な日だと思った事はなかったからな」

「私は、特別だと思うよ」
は桐山の顔を、真っ直ぐに見て言った。

の顔には優しい微笑が浮かんでいた。
「その人が生まれた、大事な日だから。周りの人はお祝いしたいって思う」
「そういうものなのかな?」
「うん。私は、少なくともそう思う」

桐山が首を傾げて、言った。
「まだまだ、俺の知らない事が、たくさんあるんだな」
はそんな桐山の様子に微笑した。

「いいんじゃない?まだ十四歳なんだし。これからわかる事だっていっぱいあるよ」

桐山は の顔を見つめた。
やはり無表情のまま。

少しの間の後、桐山はあまり大きくない声で、ぽつりと言った。

「そう考えると、生まれてきて、今こうして生きている、というのは、面白い事なのかも知れないな」

「桐山くん?」

「生きていれば、こういう悪くない事に、出会う時もある」

桐山は、そっと目を伏せた。

「今日、俺はそう思ったよ」

桐山の言葉に、 は暫く凍りついた様に黙っていた。

少しして、 は言った。
「何か今の言葉、すごく聞いてて嬉しくなったんだけど」
「そうか?」

の声は僅かに震えていた。

「来年、またやろうよ」
「ああ。では今度は、 の分も」
「ありがとう。今から楽しみ」
が桐山にもたれかかった。
「今日、お祝い出来て本当によかった」
桐山は黙ったまま、そんな を見ていたが、ふと思いついた様に、
腕の時計に目をやった。
先程 と充から贈られた時計に。
、何時の間にか になっていたな」
「本当?」
時計の針は12時を5分程過ぎた箇所を指していた。

は笑顔で桐山を見上げて、言った。
「お誕生日おめでとう、桐山くん」


の笑顔を見て、
桐山はまたこめかみが疼くのを感じた。
不快な疼きではなかったが。

「ありがとう」

今からちょうど十四年前。
桐山の母親の心臓の音と同時に止まってしまっていた、桐山の「何かを感じる心」が、
動き出す。

桐山は自分にもたれかかった を見つめた。
やはりそこにあるのは笑顔。
「このまま、寝ちゃおうか?」
「…そうする」

桐山がそう言うと、 はゆっくりと目を閉じた。
桐山にもたれかかったまま。
その の様子を見て、桐山の胸に、何かひどく温かいものが広がる。

桐山も、目を閉じた。

こういうのも悪くないな、と桐山は思った。


おわり

664番踏まれたかもん♪さまへ捧げます。
前半ギャグで後半いきなりベタベタしててすみません(涙)。
スランプなんです。
桐山のお誕生日、というリクでしたが、なんだか桐ファミが出張ってしまいました(汗)。
最近暗い話ばっかだったので、幸せな話書けてなんか嬉しかったです。
ちょっと色々自分でも納得行かないとこ、あるんですが、今はこれで精一杯(涙)。
リクありがとうございました。
これからも宜しくしてやって下さい!