平凡な日常が、突然一変することは何時でも起こり得ることなのだと。
そう考えずにはいられない事件が起こったのは、ある土日、家族が皆旅行に行ってしまっていて、
その留守番をひとりきりでしている時のことだった。


ピンポーン。

「はーい」
インターホンを取ることもせず、ドアを開けたは、その来訪者たちの姿を見て目を丸くした。

来訪者は三人だった。
とても背が高くて、大人びた印象の、オールバックの美青年。
同じくオールバックだが、こちらは中背で、女性的な美貌の、無表情の少年。
それからふわふわの金髪にフラッパー・パーマをかけた、どこか無気力な感じの表情をした男の子。

「えっと…あなたたちは」
「「「桐山和雄」」」
三人は口を揃えて、言った。






は初対面の、不思議な少年たちにどう対応していいかわかりかねたのだが、とりあえずなぜ
ここに来たのか尋ねた。
しかし彼らのほうも、どうして自分たちがここに来たのかまるで理解できていないようだった。
三人とも、学校で気を失い、気がついたらこの家の玄関の前に居たという。
御互いに知り合いでもないらしい。
滅茶苦茶な話だが、は自分を無理やり納得させることにした。
この三人を、怪しい人たちと追い返す気にはなぜかなれなかったので。
「とりあえず…うちに居る?」

警察を呼ぼうかと提案したのだが三人が拒んだので(はっきりとは口に出さないが、雰囲気でそれと察せられた)、はそう持ちかけた。
彼らはいっせいに頷いた。



「あだ名とかは覚えてるかな?」
三人に飲み物を出してから(一応、希望は聞いた。結果、全員オレンジジュースを出した)、は尋ねた。
「ボスと呼ばれている」
「ボスと呼ばれている」
「………」
オールバックの二人が答え、金髪の一人は沈黙した。
は混乱した。
三人とも同性同名なのだ。あだ名がなければ紛らわしい。

結局、苦慮の末、背の高い方のオールバックの桐山を「ボス」、低い方のオールバックの桐山を「桐山くん」、
金髪の桐山を「和雄くん」と呼ぶことに落ち着いた。
「私の事は、って呼んでね」
三人はそれぞれをじっと見詰めて、頷いた。
それぞれ個性的な、三人の美少年に見詰められ(ボスは少年と言うより青年と言った方が正しい容姿だったけれど)、
はほんの少し顔を紅くした。

三人はこれ以上ないくらい、の家でくつろいだ。
家族が出かけてしまってから寂しかったの家は、一気ににぎやかになった。



夜になって、三人は順番にお風呂に入り、最後に入ったのはボスだった。
ボスは随分長い間入っていたのだが、心配したが外から声をかけると、程なくして出てきた。
「…ボス!」
お風呂から上がったボスを見て、は唖然とした。
のぼせてしまったらしく、ボスは鼻血を出していた。
「…大丈夫?」
「あぁ」
ティッシュで血で汚れた顔を拭いてやると、ボスはきゅ、と鼻を押さえた。
それだけでもうすっかり鼻血は止まってしまい、は驚いた。
「すごいね、ボス」
「…いや」
ボスはククッ、と首を傾げた。

それからを挟んで、四人で布団に包まって眠ることになった。
じゃんけんをして、負けた一人はの隣に眠ることはできない、ということになり、
負けてしまったボスは無表情ながらもどこか寂しそうな顔をした。
「ごめんね、決まりだからね」
はボスが可哀想になって、優しくボスの頭を撫でたり、布団の上から背中を
撫でたりして、寝かしつけた。身体は三人の中で一番大きくても、ボスは一番に甘えたがっている
ようだった。
ボスが眠ってしまうと、今度は残りの二人が駄々をこね始めた。
、…俺にも」
「………」
桐山が真っ黒な瞳でを見詰めながら言い、和雄は無言でのパジャマの裾を掴んで訴えた。
どうやらボスにしてあげたことを、自分たちにもして欲しいらしい。
「…わかったよ、だから、ちゃんと寝てね?」
二人に言い聞かせ、二人の望むとおりに頭を撫ぜてやる。
に撫ぜてもらっている時の二人は、ボスと同じく、とても幸せそうな顔をした。
表情こそほとんど変えないもののーそれはに十分伝わってきた。





朝は遅めに起きた。
は手料理に興味があるというボスにせがまれて、眠い目をこすりつつ、レシピを見ながら三人のために朝ごはんを
作ってあげた。
「これが玉子焼きと言う物か…写真で見るのとは随分違うなっ」
ボスはまるで研究対象でもあるかのようにまじまじと玉子焼きを箸で掴んで眺めた。
「ボス、そんなことやってると冷めちゃうよ」
の料理を冷ますのは良くない。…早めに食べたほうがいいよ」
すっかりの料理の味を気に入ったらしい桐山が淡々と言ったので、ボスは頷いて玉子焼きを口に運んだ。
「うまい」
和雄はほとんど噛まずに自分の分の玉子焼きを平らげて、言った。


朝ごはんを食べた後は、三人はの部屋でそれぞれくつろいだ。
まるで随分と昔からここに住んでいたかのように。

ボスはの部屋にあった雑誌を教科書でも見るかのように読みふけり、桐山と和雄は格闘ゲームで
対戦していた。現在三勝四敗で和雄が桐山に敗れている。
むっとしたような表情の和雄と、ただ無表情にコントローラーを叩く桐山。
二人はまるで子供のように見えた。
食事の後片付けを終えて部屋に戻って来たに、最後の雑誌(少女漫画だ)を読み終えたボスが、生真面目な顔を
して、ぼそりと言った。

「…だいたいのことは理解した」
「もう、ボス、男の子が女の子の読む雑誌読んだって面白くないでしょ?」
「…?」
は苦笑して、ボスから雑誌を受け取った。ボスはククッ、と首を傾げた。



ピンポーン。

それから少しして、チャイムが鳴った。
家族が早めに帰ってきたのだろうか。そうしたら、三人のことをどう説明しようか。
は最初こそ戸惑ったものの、しかしまあ何とかなるだろうと思い、またインターホンを取らずにドアを開けて
しまった。

「はーい」

ドアを開けると、家族ではなく、三人の男が立っていた。

一人は茶髪に短いパーマをかけた、少し気の強そうな少年。
一人はいささか時代遅れな印象の、短ラン、パンチパーマの、いかにも不良といった風貌の少年。
もう一人は黄色いバンダナを巻いた、筋肉質の、青い学生服に身を包んだ青年。

「…すまねえ、ここに、桐山和雄って人、来てないか」
茶髪の男が、ちょっと気まずそうな顔をして尋ねてきた。
「は、はい。…でも、三人…」
が戸惑いながら振り向くと、居間にいた三人がぞろぞろと玄関までやって来た。
。…どうかしたのかな」
「どうしたんだ、っ」
「………」

「ボス!」
ボスの姿を認めると、茶髪の男の後ろにいたパンチパーマの男が、目を輝かせて叫んだ。
「…充かっ」

ボスがそう呟いたのに、は尋ねた。
「知ってる人なの?」
ボスはこくりと頷いた。

「…こんなとこにいたんやな」
バンダナの青年があきれたように言った。
の後ろにくっついていた和雄は、びくっと身体を震わせた。

「…充」
「ボス。無事で何より」
外に出てきた桐山に、茶髪の男が屈託のない笑顔で応えた。




「お前、迷惑かけたんやろ、ちゃんと謝れや」
「………」
「ボスが世話になったそうっすねっ。ありがとうございますっ」
「ボスの面倒みてくれてありがとな」
バンダナの青年に軽くこづかれ、ぺこりと頭を下げた和雄。
目を輝かせてひざまずいたパンチパーマの男。
きつく結ばれた口元を緩ませ、ぶっきらぼうに言った茶髪の男。
傍から見たら、さぞかし奇妙な光景に映ったに違いない。

「…みんな、帰っちゃうの?」
は少し寂しそうな顔で、三人を見て、言った。
短い時間とはいえ、三人と仲良く過ごせたのに。
それぞれの保護者らしいこの男たちに連れられて、三人の桐山は、
帰ってしまうのだろうか。
元々、突然やってきたのだ。突然帰ってしまうのも当然なのかもしれない。

のそんな顔を見て、桐山はこめかみを触り、和雄は瞬きし、
ボスはククッ、と首を傾げた。



「…、また来てもいいかな」
「………」
「またここに来たいんだ、っ」
三人は帰り際、表情こそ変えないものの、ひどく寂しげな様子で、そう言った。

「また来てね、ほんと」
は少し寂しそうに笑って、手を振った。

三人は、三人それぞれが過ごす場所に帰ったようだった。





家族はそれから間もなく帰って来た。


、なんでお菓子全部なくなってるの」
「家庭の医学、勝手にひっぱりだしちゃだめだろう」
「ゲーム、勝手に全部クリアしただろ」

「…ごめんなさい」
みんなが出かけている間に起こった、楽しいハプニングは、だけの秘密だった。




おわり





後書き:桐山の日、ということで原作、映画、漫画版全員を登場させたパラレル夢にして見ました。
実際はありえないことですが、三人の格好いい部分よりは私的に可愛いなあ、という部分を強調しました。
なので…かっこいい桐山推奨の方にはかなり申し訳ないことになってます(汗)。
とりあえず今日が特別な日なので、シリアスよりは甘めでほのぼのを目指したつもり…です。
主人公が無防備すぎる子になってしまったのは設定上の都合ですね(ダメじゃん)。
ちなみに後から来た三人は原作版の充、漫画版の充、映画版の川田です。
何らかの理由で次元を超えて三つの媒体のキャラが主人公の下に来た、ということにしておいてください(無理やり)。


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