元気な君が好き

「ねえねえ 、一体瀬戸のどこが好きなわけ」
「え?豊って背低くて可愛いし…それに…」

昼休み。仲の良いグループの女子たちとの他愛ない会話。
が何の気なしに発したその言葉は、付き合い始めたばかりの彼―瀬戸豊の心をひどく傷つけたようだ。
「まじ?私だったら背低い男なんて眼中ないけどなあ」
隣の女子が の言葉を遮った。
「でも…」
言葉を継ごうとして、 は目を見張る。
「…豊?」
の正面―ちょうど教室の中に足を踏み入れたばかりと言った様子の豊が、立ち尽くしていたので。
「どうしたの?」
軽く微笑んで声をかけた。しかし、豊はその を無視するかのように、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「―豊!」
驚いて椅子から立ち上がり、引きとめようとしたが遅かった。
小柄の背中はもう見えなくなっていた。
呆然と立ちすくむ の背後で、何あいつー、と女子たちは眉をひそめながら顔を見合わせた。


豊はその頃、廊下をすごい勢いで走っていた。
がむしゃらに進んでいた所為で、前を歩いていた生徒に幾度かぶつかってしまった。
「ったく、あぶねえな、このチビ」
一人がそう言って舌打ちする。
ずきん、と豊の胸は痛んだ。
触れられたくない部分だった。

豊はまた走った。
「豊って背低くて可愛いし」
の言葉が胸に反響する。
わかっているのだ、自分でも。
気にしている。それでも―どうにもならないじゃないか。
もやっぱり、俺なんかより―、もっと背が高くて、格好いい奴の方がいいんだろうな…」
自分から告白した手前―豊は自信が持てずに居た。

その日を境に、二人の仲はどこか気まずいものとなった。
付き合う前から豊は に一生懸命話し掛け、必死に考えたギャグを披露したりして、 を笑わせる事が
日課の様になっていたのに、それもぷつりと途絶えた。
豊がなぜそんなに怒っているのか理解出来ていない は、ただおろおろとしていて、自分から話かける事も出来ないようだった。いや、一度声をかけたものの、豊が無視してしまったので、それ以上話し掛ける勇気を出せなかったという方が正しいかもしれない。

「どうして豊怒ってるんだろう…」
「てかさ、 何にも悪い事してないんでしょ?最悪じゃない?」
「別れた方が良いよ。ちょっとあいつお調子者のとこあるし。気まぐれだったのかもよ」
毒舌の友達にそう勧められても、 は豊を諦める事が出来なかった。
―どうしたらいいのか。
何かをしたのなら謝りたい。でも、これ以上関係を悪化させたくはない。
かと言って、このままでは―自然消滅してしまう。


「ねえ、シンジ」
「ん?」
「どうやったら、背伸びると思う」
「何だよ突然」
瀬戸豊の親友、三村信史は、この所豊の元気がなかったのに何となく気付いていたのだが、豊が話したくなるまでそっとしておこうと思っていた。
ところが、思い詰めた表情の豊が発した言葉が予想外のものだったので、少し、驚いた。
「普通に牛乳飲んだりとか―、バスケとかやってるうちに自然に伸びるんじゃねえの?でも体質とかってあるだろ。俺、豊はそのまんまでいいと思うぜ」
「嫌なんだよ!」
豊は丸い頬を真っ赤にして、声を荒げた。信史は面食らった。
豊がこんなにむきになって怒る事は―本当に珍しいので。
「…悪かったよ。でもさ、何でまた急にそんな事考える様になったんだ?」
「………」
豊は俯いて沈黙した。しかし、暫くして口を開いた。
「… が」
「え?」
が…友達に、俺のどこが好きって聞かれて…背が小さくて可愛いからって言ってたんだ」
信史は目を丸くした。
「… が好きって言ってるんなら、別に気にする事ないんじゃねえか?」
「男が可愛いって言われて、嬉しいわけないだろ」
豊は頬を膨らませた。
「………」
信史が黙ったままだったので、豊は訝しげに思い、顔を上げて信史を見た。
そして顔を紅くした。信史が、必死に笑いを堪えている様子だったので。
「笑い事じゃないよ!信史!」
「悪い…でもさ、本当に 、豊のそこだけが好きなんだと思うか?」
「え?」
「豊には豊のいいとこがたくさんあるだろ」
豊は瞬きした。
そう言えば。
はまだ―何かを言いかけていたような気がした。
自分が止めてしまわなければ。
沈黙した豊に、信史は優しく微笑を浮かべて言った。
「彼女の言った言葉気にして、そんなに悩むとことかさ。…すごいと思うぜ」
豊はぎゅっと拳を握りしめた。




「… !」
ホームルームが終わるのを待ちかねたように、豊は の元へ駆け寄った。
「…豊」
随分と久し振りの事だった。―この二人が話したのは。
「ごめん、俺…」
豊は俯いた。無視してしまった手前、上手く言葉が切り出せない。
「…よかった…」
「え?」
震えたような声に驚き、豊は顔を上げた。
は今にも泣きそうな顔をしていた。
「私…豊に嫌われたのかと思ったよ…」
豊の大好きな笑みが消えていた。
「…そんなわけないじゃないか!」
豊は思わず叫んだ。そして後悔した。自分が、子供っぽい意地から、 を傷つけてしまった事を。
「…本当に?」
不安そうな に、何度も安心させる様に頷いてみせる。
小さな手で、しゃくりあげる の肩を優しく撫ぜながら。


教室では人目につくからと、図書室に場所を移して、豊は に自分が怒っていた理由を話した。
怒っていたというよりは―悔しかった、という方が近いのだけれど。
も三村の様に笑った。何だ、そんなことで。
それに豊はむきになって抗議した。笑い事じゃないんだよ、と。
「… は俺のどこが好きなの」
すっかり涙の乾いた目を大きくして、 は豊を見た。
初めて告白した時も―とても驚いて、こんな顔をして。
は豊に聞いた。それも冗談なの?と。
と居る時はいつも、自分は本気なのに。
は微笑んだ。
「豊、初めてこのクラスになった時の事覚えてる?」


二年進級と同時に行われたクラス替え。
このクラスになった時、 が一年生で仲良くなった友達は全て別のクラスになってしまった。
座った席も、周りは見知らぬ顔ばかり。それに、不良と言われている男子と女子両方に囲まれてしまっていた。話し掛ける勇気など起こるはずがない。
どうしよう…。
が震えるような気持ちで居ると、突然明るい声が上から降ってきた。
「君、前どこのクラスだったの?」

初対面で、気軽に話し掛けてくれた、右斜め前の席に座って居た豊。
自分も不良だらけの一角を通り抜けるにはそれなりに緊張しただろうに。

それからも幾度となく豊は話し掛けてくれた。
決して面白いとは言えない駄洒落やギャグも、豊が口にすると面白く聞こえてしまうから不思議だった。
「私が元気ない時とか、すっごい変な顔して来たりしたでしょ。…なんか、悩んでるのが馬鹿みたいって思えてすっきりしたんだ」
豊が黙っていると、 は豊の手をとった。
…?」
顔を真っ赤にする豊に、 は優しい声で言った。
「豊と居ると、すっごく楽しいから。一緒に居ると元気になるから。私、豊のこと大好きだよ」
初めて聞いた、 の気持ち。
豊は胸がいっぱいになって、今 に言いたい気持ちを、言葉に出す事が出来なかった。
…俺。
いつも、 に笑ってて欲しかったんだ。そのためだったら、どんな事でも出来るって思った。
笑ってる が大好きだから。




おわり



後書き+++
82000ヒット申告して下さった冬月蝶瑚様のリクで「喧嘩からの仲直り」同い年での瀬戸豊夢でした。…初挑戦でしたが…こんなものでよろしかったでしょうか(汗。
書いてる本人もこっぱずかしくて鳥肌が立ちそうでした(何。にしたって泉さんのお友達がひどいのはご容赦(汗。
背低いのって男の子は結構気にするらしい…です。
タイトルはすごく古いSMAPの曲から。



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