Dreams come True

城岩町立城岩中学校三年B組、出席番号女子 番、
成績優秀、性格よし。おまけに可愛い。
B組の男子たちの大半は彼女に密かに想いを寄せていた。
それはかの有名な不良グループ、「桐山ファミリー」のボス、桐山和雄(男子6番)も
例外では無かった。
顔にこそ出さなかったが、彼は が好きだった。

桐山が に話し掛ける回数も、日を追う毎に増えて行った。

は桐山が不良のボスだからと言って偏見を持つこと無く、対等に桐山と話した。
と桐山の仲が親密になって行っているのは、誰の目にも明らかだった。
を好きな男子達も、相手があの「桐山和雄」とあっては滅多な事では に手を出す事ができなかった。
桐山は頭脳明晰、運動神経抜群、喧嘩では無敗を誇り、しかも父親は県内トップ企業の社長と来ている。そんな相手を敵に回したらどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。
あきらめるしかないと、泣く泣く誰もが思った。
しかし。
一人だけは、違った。
三村信史(男子19番)である。
通称「第三の男」。バスケ部の天才ガード。城岩中の女子たちの間では絶大な人気
を誇る男。
彼も、 が好きだった。
彼曰く「あいつはいつもの女とは違う。本気で好きだ」そうだ。
彼は例え桐山に喧嘩を売る事になろうと、 を手に入れる、と公言して憚らなかった。

ある日の昼休み。
「なあ 、今日俺弁当忘れたから分けてくれよ」
「購買開いてるよ、三村くん」
「金も無いんだよv」
「そうなんだ…じゃあ仕方無いか。はい」
は気前も良い。
と言うか、優しすぎる。
の今日の昼食はサンドウィッチだった。
苺クリームサンドと玉子サンド。
三村は瞳を輝かせた。
「美味そー…どれもらっていいの?」
「どれでもいいよ」
「じゃあこれもらうな!」
三村は苺サンドを頬張った。
「すげー美味い…」
「本当?嬉しいなあ。それ私が作ったんだよ」
少し頬を赤く染めて が言った。
「マジ!?」

ああ、弁当忘れた時はどうしようかと思ったけど...
何かすげー得した気分…
三村、至福の時。
しかし。
うっ…
背後から何か殺気を感じるんですけど?


「あっ、桐山くん、おはよう」

三村の天敵(?)桐山和雄が、やっと登校して来たようだ。
「おはよう」
どこか威圧感のある声。

さすがの三村も、少しだけ後ろを振り返るのが怖かった。
しかし桐山が と話し出すと、そんな殺気など全く感じられなくなった。
三村は少し苛立った。ちっ、きやがったか。最近はあんま休まなくなったな。

「桐山くん、今日はどうしたの?」
「…寝坊した」
「またー?桐山くん目覚ましとかかけないの?」
「使用人が起こしに来る」
「じゃあどうして…」
「今は起きたくない、と言ったら、そのまま居なくなった」
「それじゃ全然意味無いじゃん!」

はおかしそうに笑った。
桐山は無表情でそんな を見つめている。
ついでに、失礼、三村も。
―ああ、 、笑った顔すげえ可愛いな。でも、その顔、俺以外の男に見せるのは…
何だか許せないな。特にこいつ…キレイな顔して、何考えてるかわかんねえからな。
三村はちらりと桐山の方へ視線を移した。
ちょうど桐山もこちらを見ていたらしく、視線がぶつかる。

冷たい目。

うっ…怖くねえ…怖いわけあるか!こいつを怖がってちゃ は俺のものに
出来ないからな…

三村にしては珍しく、動揺していたが―
クールに、クールにだ(?)。
三村はすぐに落ち着きを取り戻した。

、弁当ありがとな、すげー美味かったぜ」
桐山に見せつける様に、三村は に言った。
「うん。あんなのでよければまたあげるね」
「マジ?」
何か脈ありじゃないですかこれ?
聞いたか桐山?羨ましいか?
横目でちらっと三村は桐山の方を見た。
やはり桐山は無表情だったが―何だか雰囲気が恐ろしかった。
怖くない。 のためなら!
三村は早まった。
嬉しくて、我慢出来なかったのだ。

、これから毎日俺の弁当作ってくれよ」
「え?どうして急に?」

はきょとんとした様に三村を見、
その隣に居た桐山は僅かに眉を寄せた。

「やっぱはっきり言わないと、わかんないよな」
三村は勿体つける様にそう言った。
今まで散々アタックして来たにも関わらず、
は全く三村の気持ちに気付いてくれていない様だった。
俺にここまで言わせるの、 が初めてだぜ?
大体の女は、自分から三村に近づいて来るから、である。

「俺、前から の事好きだったんだ。だから、俺と、付き合ってくれ」
「え…?」

はあっけにとられた様に瞬きして、三村を見つめた。
「冗談だよね…?三村くん?」
「俺は本気だ」
三村が少し改まった様にそう言うと、 は見る見る耳たぶまで紅くなって俯いた。
、照れてる。可愛い…
どうだ桐山、お前はこんな事言えないだろ?勝負あったな。

、返事、くれないか」
三村はじっと を見つめて言った。
は顔を真っ赤に染めたまま、困った様な顔をして、
「あ.…ごめん…もう少し、待って…くれないかな。少し、考えたいから」
そう小さな声で答えた。
三村は少しだけがっかりしたが、まあ、焦りすぎるのも良くないよな、と思い直し、
「わかった。いつでも待ってるからな」
安心させるように笑顔で に言った。
桐山はやはり、その様子をただ静かに見ているだけだった。

三村はそんな桐山を見て、思った。
俺の勝ちだな、桐山。
確かな勝利の予感を噛みしめつつ、三村はバスケ部のミーティングに向かう為に教室
を去った。

「どうしよう…」
後に残された は戸惑った様に呟いた。
桐山はそんな を無表情で見ていたが、暫くしてぽつりと言った。


は、三村が好きなのか」

「………」

「どうなんだ?」

「どうして、そんな事聞くの?桐山くん」

は何故か少し泣きそうな顔をしていた。
桐山はそんな を見て、ほんの僅かに眉を顰め、
そして、静かに言った。
「俺は が好きなんだと思う」

桐山の突然の告白に は虚を付かれた様に桐山を見た。

桐山は無表情のまま、目を伏せて、言った。
が三村と話しているのを見ると、心臓が苦しくなる」

そう。桐山は を好きだったのにも関わらず、今までその事を に伝える事が
出来なかったのだ。
そんな気持ちを感じたのは初めてで、どうしたら良いのかわからなかったから
である。
それが、三村が に告白するのを見て、やっと決心がついた、という所であろう。

はまた顔を紅くして俯いた。
そして、言った。
少し、嬉しそうな顔で。

「私も、ずっと、桐山くんの事、好きだったよ」

桐山は僅かに眉を上げた。
「それは、本当か?」
「うん」

は言った。
「不安だったの」と。

桐山はいつでも に優しかったが、 は桐山の気持ちが
よくわからなかった。
桐山はあまり表情も変わらないし、何も言ってくれなかったから。
だからいくら桐山の事が好きでも、言い出せなかったのだと。

「私の事好きだったんなら…ちゃんと言ってくれなきゃ、わかんないよ」
「済まなかった」

桐山は少し小さい声でそう言った。

はそんな桐山を見ると、いたずらっぽく笑って
言った。

「三村くんの事、どうしようかな。責任とってよね」

は冗談で言ったに過ぎなかった。
三村の事も、桐山の気持ちがわからなかったさっきは、少し気持ちが傾いた。
でも今はやっぱり、桐山が好きなのだ、と再確認したから。

しかし、 は気付いていなかった。
桐山には、冗談というものが通じないという事に。
桐山はその の言葉に、さらりととんでもない答えを返した。

「結婚しろ、と言うのか」

「え?」

あまりにも唐突な桐山のことば。

も、何気にしっかりとこの三角関係(?)のもつれを息を呑んで見守っていた
B組の生徒たちも、一瞬固まった。

普通は「付き合おう」が先じゃないのか?
まあ今までも付き合ってる一歩手前位には見えたけど...
いきなり「結婚」はないだろ?

クラスメイト達は桐山の理解不能な言動に、突っ込みたい気持ちでいっぱいだった。

の顔はもうこれ以上無い、という位紅く染まっていた。

「そうすれば、もう三村の様に に手を出そうなんてやつはいなくなる」
桐山は異存は無いだろう、といわんばかりの顔で を見た。
桐山は、本気だ。


「桐山くん…そんな突然…私たち…まだ中学生なのに…」
は、嫌なのか」
「う…ううん、全然!」
「それなら、問題は無いな」

ちょっと桐山くん…嬉しいんだけど、でも…
は困った様に桐山を見た。やっぱり、本気の様だ。
桐山は時々こういう滅茶苦茶な事を言う。

そして昼休みが終わり、三村がミーティングを終えて戻って来た時、
いよいよ桐山のその滅茶苦茶振りが発揮された。
桐山は三村の姿を認めると、独特の威圧感のある声で、言った。

「三村、聞いてくれるかな」
「何だよ?いきなり」

さては決闘でも申し込むつもりか?
ちょっと自身薄だが―いいぜ、オーケイ、受けて立ってやる。
は絶対俺の事好きだし(思い込み)。

三村と桐山は向かい合った。
はどうしよう、と思いながら二人を見ていた。
クラスメイトたちもはらはらしながら見守っていた。
その次の桐山の言葉はやはりとんでもなかった。

「これから は『 』ではなく『桐山 』になる」
「はあ?」

桐山の答えがあまりにも意外過ぎて、三村は思わず間抜けな声を出した。
「お前自分がなに言ってるかわかってる?」

その通り!
クラスメイトたちも もその言葉に心の中で相槌を打った。
桐山はそんな三村の言葉などお構いなしに続けた。

「ああ。俺たちはまだ結婚出来る年齢では無いから、これから父に報告して、
婚約する。多分、式を挙げるのはまだ先になるが、その前に、呼び名だけでも籍を入れた様にして置こうと思ったんだ。だから」

桐山は隣に居る、呆然としたままの の手をとって、言った。
「これから の事は桐山と呼べ、三村」

無表情の桐山。
顔を真っ赤に染めた

思わず、三村は固まった。
ショックだ。
何だか色々な意味で。

こいつ、頭いいのか悪いのか…

…お前…そんな奴でいいのか…?」
「う...うん。ごめん、三村くん」

いいんですか?
そんな奴で。
は、俺よりも、そんな天然ボケ野郎が良いんですか?
冗談だろ?
三村は思った。
叔父さん、もう俺マトモな恋、出来ないかも知れない…

三村のプライドは粉々に砕け散った。

に振られて、何だかもう魂が抜けた様に立ち尽くしている三村に、
桐山は駄目押しをする様にもう一度呟いた。

の事は桐山と呼べ、三村」


こうして「第三の男」三村信史は、桐山和雄との、 を巡る争いに手痛い敗北を喫したのだった。


さて後日談。
桐山はその豪邸で、以前言った通り本当に を父親に紹介した。

はかなり不安がっていたが、桐山の父親に逆に気に入られてしまい、
「毎日でも来なさい」とまで言われてしまった。

そうして本人も訳がわからないまま、二人の高校入学を機に、正式に婚約。
桐山は県外の超有名私立男子高へ、
は桐山の学校と最寄駅が同じ、やはり有名私立高へそれぞれ入学し、
三年間一緒に登校した。

高校卒業。
桐山は、やはりと言うべきか、さすがと言うべきか、東京の、国立の最難関の、あの大学に見事首席合格を果たした。
も、都内の有名私立大学に推薦入学が決まっていた。

そして、揃って上京。
桐山の父が借りてくれた超高級マンションに、二人暮し。
嘘の様な話だが。

大学卒業とともに、あの時の桐山の言葉通り、本当に二人は結婚してしまった。

三村もまさかそこまでこの二人が順調にいくとは、思っていなかったに違いない。
嘘の様な、本当の話。
本当には「桐山」になった。





終わり





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