Rebirth!
「え?嘘でしょ?」
危うく受話器を取り落としそうになりながら、
は受話器の向こうにいる相手、
桐山和雄に聞き返す。
「本当だ。俺は、明日から一週間、入院する」
いつも通りの淡々とした答えが返って来た。
「桐山くん、病気なの?」
「いや、そうだとは聞いていない。ただ、父が手術の時期だと言ったから」
「…やっぱり」
「心配はいらない。すぐに戻って来る」
は通話を終え、受話器を置いたあと、一人呆然としていた。
桐山くんが…
手術…
桐山くん、どこが悪いんだろう。
私、全然気がつかなかったよ。
桐山くんがそんな…
まさか、不治の病とか…
まさか。
は首を振った。
そんなはず、ないよね。絶対。
は不安な気持ちでいっぱいになった。
その夜はほとんど眠れなかった。
次の朝、
は暗い面持ちで登校して来た。
「お、
。おはよう」
真っ先に声をかけて来たのは、三村信史。
「おはよう」
「どうしたんだよ
?何か元気ねえじゃん」
三村は
を心配しつつ、いつも
の側で威圧感を持って他の男を近づけないようにしている男
―桐山和雄がいない事を密かに喜んでいた。
「俺に言える事なら言えよ、相談乗るぜ?」
三村はそう言って軽く
の肩に手を置いた。
いつも桐山がいる時には絶対にそんな真似は出来ないのだが。
は三村の言葉に、顔を上げた。
「お、おい。
…?どうしたんだよ」
三村は驚いた。
の目にはいっぱい涙が溜まっていた。
「三村くん…どうしよう。桐山くんが…」
「ふーん、桐山がねえ…」
泣きながら事情を話す
を宥めながら、三村は少し考えた。
あいつが入院?
絶対に病気になんてならなそうに見えるんだけどな。
…待てよ。
あいつはターミネーターだから…もしかすると。
最新版データでもアップロードしてんじゃねえか?
三村の頭には、チップの交換手術を無表情で受ける桐山の姿が思い浮かんだ。
―まさかな。
しゃれにならない、そんな事。
三村は自分の想像力の豊かさに思わず感心しつつ、
「まあ、
。そんなに泣くなよ。一週間したら帰って来るって言ってたんだろ?」
「でも…」
「そんなに心配ならさ、俺が一緒に行ってやるから、桐山の入院してる病院、行ってみようぜ」
を安心させるのも忘れない。そんな心遣いも忘れない、器用な男、三村信史。
はその三村の言葉に、ぱっと目を輝かせた。
「ありがとう、三村くん…!」
「いやいや、
のためならさ」
素直に喜ぶ
を微笑ましい気持ちで眺めつつ、三村は、
あいつの強さの秘密がわかるかもしれない、という好奇心を抱いていた。
その日の帰り。
三村と
は一緒に、桐山が入院しているという病院までやって来た。
しかしでっけえ病院だなあ。
三村はちょっと目を大きくしながら、目の前にそびえ立った病院を見つめた。
ここらじゃ一番でかいんじゃないか?
最新の設備が整った大学病院。
は桐山が入院する前に、「お見舞いに行きたい」とせがんで、病室の番号を教えてもらっていたので、迷わずに済んだのだが。
桐山の病室の扉に貼られていたのは、「面会謝絶」と記された紙。
「どうしよう…」
涙目になる
。
三村がそんな
を気遣って、病室から出て来た看護婦に「和雄さん、どれ位悪いんですか?」とさりげなく尋ねたが、「命に別状はありません」というそっけない返事が返って来ただけだった。
「ほら
、命に別状はないってさ。心配すんなよ」
口ではそんなことを言いつつ、三村は、
命に別状はないのに面会謝絶?
見せられないくらいの秘密が隠された手術なんだ、きっと。
頭の中では桐山がどんどん最新型サイボーグに改造されていく様子を思い浮かべていた。
その日は、帰ることにした。
次の日、また三村と
は病院に行ってみたが状況は変わらず、結局桐山に会う事は出来なかった。
三村も
も、その時は、知る由もなかった。
それから起こるとんでもない事件の事を。
一週間後。
入院していた前と全く変わらない様子で、桐山和雄が登校して来た。
「ボ、ボス!大丈夫だったっすか?」
真っ先に気が付いて、桐山に声をかけたのは、沼井充だった。
彼もまた桐山の入院の理由がわからず頭を悩ませていた一人だった。
ゆっくりと桐山は充の方を見た。そして、首を傾げて、言った。
「誰だったかな?君は」
「えっ…?」
思わず固まる充。
桐山はそんな充を、不思議そうな顔をして眺めているだけだった。
すぐに他の桐山ファミリーの面々、笹川、黒長、それに月岡も集まってきた。
「桐山くん、充くんの事、忘れちゃったの?アタシの事は覚えてるわよね?」
月岡が瞳をうるうるさせながら桐山に尋ねた。
「いや。…覚えていない」
桐山はそう淡々と言った。
月岡はもうこれ以上ない、と言う位、哀しみにうちひしがれた顔をして桐山を見た。
「…ひ…ひどいわ桐山くん…充くんはともかく、アタシの事まで、忘れるなんて」
ひどいわ、ひどいわ、と繰り返す月岡に、充は「ともかくとはなんだよ」と、こちらもやはり少し涙目になりながら言った。
「ボス、俺の事は」
「わからない」
「俺は?ボス」
「覚えていない」
笹川と黒長が聞いても、答えは同じ。
四人はどうやら、桐山が「記憶喪失」というものになってしまったのだということに気付いた。
「…ボス…一体どうしちまったんだよ.」
嘆きの色を隠せない充。
その時、がらりと教室のドアが開いて一人の女子生徒と、一人の男子生徒が入って来た。
「おはよう…って、あ!桐山くん!」
桐山を見て驚いた様にそう言って立ち止まったのは、
だった。あとから来たのは、通学路で
と会って、ここまで一緒に登校して来た三村信史。
この一週間、桐山が居ないのを良い事に、三村が
の登校時間に合わせて来ていた事は、周知の事実だった。
―桐山のやつ、退院しやがったか。ちっ、せっかく
が俺に心開きかけてくれてたのに。
三村は舌打ちをした。
どうせ改造されるんなら恋愛感情も持たない完璧なロボットに…
ん?俺酷い事考えてんな随分…。
三村はほんの少し罪悪感を感じた。
「あら、
ちゃん。いいところに来たわ」
月岡はピンクのハンカチでそっと目もとの涙を拭い、桐山に言った。
「桐山くん、
ちゃんの事は、覚えてるわよね?」
「
…?」
桐山はちょっと眉を顰めて、
の方を見た。
がそんな桐山の様子に戸惑っていると、月岡がそっと
に、「桐山くん、何だか記憶喪失みたいなのよ」と耳打ちした。
そんな…
はショックを隠せない。
―チップの交換失敗か...?
隣でちゃっかり聞き耳を立てていた三村。
「桐山くん、わかる?私だよ、
だよ」
はそう必死に言って、桐山の顔を見つめた。
桐山は、何度か瞬きをした。
「覚えていない…俺には何も分からない…」
「どうしよう。…本当にみんな忘れちゃったの…?桐山くん」
は悲しそうな顔をして、桐山を見つめた。
せっかく無事に退院して来たと思って、安心したのに。
「すまない…どうしても、思い出せないんだ」
桐山は、そう言うと、
の顔を見た。
「だが、
さん?と言ったかな?君といると、悪くない感じがする」
「え?」
「どうしてかはわからないが、そんな気がするんだ」
桐山は、じっと
を見つめた。
は思わず顔を紅くした。
二人の世界。
その様子をしっかりと見守っていた三村や月岡達。
「やっぱり、愛の力は強いのよね、三村くんv」
「…俺に同意を求めないでくれ」
三村は冷めた目で二人を見つめていた。
何か記憶喪失になっても普段とあんまり変わらねえな。
「どうしたら、記憶、戻るのかな」
は心配そうに桐山を見て、言った。
それは、と言いかけ、桐山は少し目を大きくして、
の方を見た。
「
さん、危ない」
「え?」
の頭の上、
壁にかけられた額縁が、傾きかけていた。
ぐらっとその額縁が揺れ、そのまま、落下して来る。
桐山は振り向きかけた
を伏せさせ、自分はその
を庇う様に素早く覆い被さった。
がん、と桐山の頭に表彰状の入った額縁がぶつかった。
「き、桐山くん!?」
は驚きのあまり目を丸くした。
顔を上げた桐山の目元の横、つうっと紅い線が落ちる。
どうやら頭に額縁がぶつかった時、少し切れてしまったらしい。
「大丈夫?それ…血…」
錯乱しかける
。
「…いや、大丈夫だ。 が無事でよかった」
たらたらと頭から血を流しながら、桐山は言った。
「え?桐山くん!今...」
が驚いた様に桐山を見た。
と目が合うと、桐山も驚いた様に軽く瞬きをした。
「…
」
「思い出したんだね!よかった!」
は思わず桐山に抱きついた。
「
」
桐山はそんな
を見て、少し目を細め、そっと
の背中に両手を回した。
その時。
がらっと教室の扉が開き、このクラスの担任林田が入って来た。
「おい、桐山来てるか、って…ん?」
入って来たとたん、林田は凄い光景を見てしまった。
頭から血を流している桐山と抱き合っている
。
桐山が血を流しているのを見て失神してしまった沼井充。
私たちもしましょうよvと、嫌がる三村に迫る月岡彰。
周りを囲む生徒たち。
「どうなってるんだ…これは」
林田は開いた口が塞がらなかった。
「
、俺は病院に戻らなければならない」
「大丈夫?桐山くん」
「ああ、すぐ戻って来るよ」
林田は桐山の家から「桐山が病院を抜け出した」という連絡を受け、
もしかしたら教室にいるかもしれないとやって来たのだが。
「桐山…家の人に迷惑かけちゃ駄目だろ」
「すみません」
「謝るなら
を離してからに…」
林田は呆れて物が言えないと言った様子だ。
三村はそんな二人を何だか複雑な気持ちで眺めていた。
「もう、三村くん、いいかげんあきらめて、私がいるわ」
そう言う月岡を無視しながら。
ちっ…もう戻ってくんな。
教室を後にする時、桐山がちらりとこちらを振り返った。
じっと三村を見た。
「な、何だよ」
三村は少しうしろめたい気持ちで桐山を見た。
「…退院して来た時は覚えておけ」
桐山は特に感情の篭もらない声でそう言うと、扉の向こうへと消えて行った。
三村は、思った。
多少引きつった笑いを浮かべながら。
本当、もう退院してくるなよ。
「どうしたの?三村くん。桐山くんなんて?」
「いや、何でもないよ」
三村は桐山が本調子になって戻って来る日を思い浮かべて、暗い面持ちになるのだった。
何て言ったって最新型だしな。
ー最後まで失礼な事を考えながら。
おわり
後書き:一ヶ月くらい温めていたネタです(笑)。微妙にギャグ。
わけわからない話が書きたくて。逆ハ―にしようと思ったのに三村だけになってしまったのが残念ですが、またギャグ夢は書いてみたいです。しかしボスも三村も既に別人ですね(汗)。
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