「…ねえ、和雄、命に、価値ってあると思う?」
「…よく、わからない。」
「…命にはね…平等に価値が無いんだよ。」
は、最近会う度に、俺にこんな事を言う。


Still I'm with you



俺、桐山和雄の「彼女」ということになっている。

と俺は、中一の終わり頃から付き合いだした。
告白は から。
は、いくらか派手な顔立ちはしていたが、性格は至って
普通の、明るいが、きつさを感じさせない、優しい目をした女
だった。

俺も席が近く、見る度に、可愛い女だなと思っていた。
さすがに告白された時は驚いたが。
悪い気持ちは、しなかった。

と俺は二人で映画を見に行ったり、遊園地へ行ってみたり、
中学生らしい付き合いをしていた。

俺はあんまり人と話すのが得意じゃなくて。
友達らしい友達も出来た試しがなく。
―喧嘩だけは、毎日のようにしていたが。
今思えば、それは寂しさを紛らわすためだったのかも知れない。

俺には母親が居なくて、新しい母親とその子どもには邪魔者扱いされていた。
父親も何も言わなかった。
家に帰るのがいやだった。

ああ、やっぱり、寂しかったんだな。

と付き合うようになってわかった。
俺にとって は、無くてはならない存在になっていた。
といるだけで、俺は幸せだった。

―しかし。

は中三になってすぐの頃から、変わり始めた。

俺にはすぐにその理由がわかった。
「いじめ」

最初は と仲の良かった女たちが、 を無視し始めた。
は必死で、奴らに、
「ねえ、私何か悪いことした?」
泣きそうになりながら聞いていた。
多分、奴らに理由なんてないんだろう。

「ねえ、和雄。私って変わってるよね?直した方がいいよね?」
は泣きそうになりながら俺に聞いてきた。
「…そんなこと無い。 は、そのままの でいい」
そう言うと、 は「ありがと」と言って泣いた。
俺の胸は痛んだ。
どうして、 がこんな目に遭わなければならないのか。
無性に、腹が立った。

は以前のようにあまり笑わなくなった。
俺と話す時にも、俺の目をまともに見ない。
そして「ごめんね」を繰り返す。
―やるせなかった。
いらいらした。そんな を見るのが。
だが、突き放すようなことはしなかった。
だって、今の には、俺しかいないと思ったから。


他のどんな奴に嫌われようが、構わないだろ?
お前を好きな、俺がいる。
俺がお前を守ってやるから。


疎まれる辛さは嫌なほど知っている。
俺は、慣れているからいい。でも、
突然だったから。
だからこそ、傷ついていた。


へのいじめはさらにエスカレートした。
クラスの女共は皆、「 とは口を利かない」とかいう
協定を結んでるみたいだった。

さんてさ、人と話す時、人の目見ないよね?」
「てゆうか、暗いし。不気味だよね。」
―お前たちのせいでそうなったんだろ。

俺は女共の顔面を殴ってやりたい衝動に駆られた。
に停められたから、我慢していたが。

「あとさー、桐山くんと付き合ってるんでしょ?
桐山くんも不気味だよねー、何考えてんのかわかんないしさ。
何かこわいよね。」
俺のことまで の悪口の材料にするのか。
頭の悪い奴らだな。

そう俺が思った時だった。
「和雄の悪口言わないで!」
「ヒッ…何…放してよっ!」
が、俺の悪口を言った女に飛び掛っていた。
「私の…悪口言うのはいいけど、和雄の悪口言うのは許さない!」
久しぶりに見た、強い に、俺の心は少し温かくなった。
が、俺を庇ってくれた。
しかし次の瞬間、 の顔から血の気が引きー は倒れてしまった。

「− っ!」
俺は を抱き起こした。
その顔は、真っ白だった。

は、半分拒食症になりかけていたらしい。
こんなに側にいたのに、何もしてやれなかった。

俺が守ると思ったのに。
は、俺を庇ってくれたのに。

精神も不安定になっていたため、 は病院に通うようになった。

俺の大好きな は、こわれてしまった。

それから二度と、 が学校へいくことはなかった。

俺もあまり学校に行かなくなった。出席日数もぎりぎりのところまで
来ていた。

の家には、毎日のように通っていた。

は、綺麗だった長い黒髪を金色に脱色し、左耳にピアスを
空けていた。自分で、突然そうしたんだそうだ。

そして、やってきた俺をうつろな目で見ながら、 はいつもの
ように言うのだ。

「…命には平等に価値が無い…私を肯定できるのは私だけ…。」

は毎日、何かひどく難しい本を読んでいたみたいだった。
そして、何かの本の一節を暗唱するみたいに、そう言っていた。

「和雄、私はね、道端の石ころなんだよ。私は、どかされただけ。」

はその光の宿らない目で、俺を見て言った。
もう、笑うことも無くなった目で。

俺は、 を抱きしめた。
「お前は、石ころなんかじゃない。俺はちゃんと、お前を肯定してる」
そう言っても、 には届いていないみたいだった。
の目に俺は映っていなかった。

の目は、もっと、ずっと、遠くを見てるみたいだった。


数日後、 は自殺した。
ナイフで、思い切り自分の首を切りつけて。


その日、俺が の家に行くと、血塗れの を抱いた
の母親が、狂ったように泣き叫んでいた。

は、幸せそうに微笑んでいた。

赤く血で染められた一枚の紙が落ちていた。


私は私を肯定する


それだけしか書かれていない紙が。


肯定する?
お前は、―自分を否定したんじゃないか。
自分で、自分のことを。


俺が肯定した、お前を。
自分の手で、否定してしまった。
それが、なぜ肯定なんだ?

―わからない、わからない―!

は心だけでなく、自分の命までこわしてしまった。

そして、俺も。

その日、俺の心も、こわれてしまった。

狂ったように喧嘩を挑み、相手を半死半生にした。
血が、見たかったんだ。

が流していたような、綺麗な血が。

それから一月もしない頃、半ば強制的に参加させられた修学旅行行き
のバスは、俺のクラスを、見たことのない、高圧電流で区画された
山林に連れ去った。
「おめでとうございまーす。このクラスは、今年度のBR法に適用
されましたー!」
ビデオの明るい女の声に、教室の奴らはパニックになっていた。
俺は別になんとも思わなかった。


クラスメイト同士での、殺し合い。


俺は容赦しなかった。

命乞いをし、泣き叫ぶ女たちを殺した。
をいじめていた女も含まれていた。
奴らはいつもと別人のように取り乱し、
泣き叫び、そして俺に殺された。

奴らの死体は醜かった。

男女問わず殺した。あとで聞くと、俺はクラスの半分の生徒を
手にかけていたらしい。

どうでもいいことだが。

怪我をしても痛みはほとんど感じなかった。

他人の血でも、自分の血でも。
血を見る度に俺は笑っていた。


生き残りたかったわけではなくて。
ただ、血が見たかったんだ。

血が。




気がつくと、俺は一人になっていた。
いや、一人に戻っただけだ。
俺は、ずっと一人だった。
といるまで。


が死ぬ前日、俺は に聞いた。
「命に平等に価値が無いなら、俺の命にも価値はないんだな。」
は俺をぼんやりと見ていた。
は、俺も石ころのように、価値が無いと思っているんだな?」
はただ静かに俺を見ているだけだった。
俺が聞いても、もう何も言ってくれなかった。



三年D組BR法適用 
今回の優勝者は、男子七番桐山和雄くん。」

別に嬉しく無かった。
俺は、道端の石ころを、ただどかしただけだ。


俺は、俺を肯定した。


は、俺を、肯定してくれていた?

まだ、わからない。

わからないから。


一年後。
金髪に脱色した髪に、フラッパーパーマをかけ、左耳にピアスをあけ、
血の染み込んでいない、真新しい黒い学ランを羽織った少年が軍の事務課に訪れた。
「俺はまたプログラムに参加したい。」
書類に書かれた名前は「桐山和雄」。




俺は次の年のBR法に、自ら志願した。
俺は笑って、一つ下の生徒たちを殺した。
楽しいから、笑ってるんじゃない。
あの時の の笑顔を思い出すと、自然に笑ってしまうんだ。


誰かに、否定されるまで。
俺は俺を肯定する。
俺が道端の石ころかどうか確かめるため。



そうすれば、わかるだろうか。 のことが。
俺も、あんな風に、
笑って死ねるだろうか?





おわり





ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
こんな暗くて長くてわけわからん話ですが。
この話は、映画版桐山を見て思いついた話です。
私はやっぱり、映画桐山は狂ってたんだと思います。それであんな感じ
のエピソードがぱっと浮かんだんです。川田と同じで、前回優勝者じゃないかな、と。
妄想爆発ですね。主人公幸せじゃないし。ドリーム向けの話じゃないし。
でも、結構一生懸命考えた話だったりします。いじめで気分悪くなった人すみません。
あ、ちなみに、桐山が繰り返し言ってる台詞は、ご存知の方もいらっしゃると思いますが
桐山が映画で言うはずだった台詞です。安藤さんが「言わない」と言って幻の台詞になったやつ
です。あの台詞であんなこと考える私っていったい。

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