「交換日記しない?和雄」
付き合って二週間目のある日、 は桐山和雄にこう提案した。

Happy Diary

「交換日記…?」
和雄はきょとんとして首を傾げる。

は頷いた。
「うん、和雄、前話すのあんまり得意じゃないって言ってたじゃない?だから、日記だったら
自分の言いたい事書けると思って」

そう。
和雄は、告白して来た時も、ただ無愛想に一言「俺と付き合ってくれ」と言っただけだったし、
デートする時も、 の方から話し掛けなければずっと黙ったままなのだ。
それを責める気は無かったが、やはり会話が弾まないと不安にもなる。

「交換日記嫌い?」
が少し不安そうに訊くと、和雄はちょっと眉を上げて。
「嫌いじゃない」
そう、ぽつりと言った。
「ほんと?じゃあ明日から始めない?」
が嬉しそうに言うと、
和雄は黙ったまま頷いた。
その顔は、少しだけ嬉しそうだった。

交換日記は和雄の番から始まった。



きょう
学校行った
昼はやきそばパンを食べた
かえりにR中のやつにからまれた
なぐってやったら泣いてかえって行った
つまらなかった
でもてかげんした
とやくそくしたから
の弁当がおいしそうだった
今度おれに作ってくれないか?



はその日記を和雄から受け取って、目を通すと、微笑ましい気持ちになった。
和雄なりに一生懸命書いた事が伺える文章だった。
自分の番の日記を書きながら、 は交換日記始めてよかったな、と思って居た。



今日は日直になったよ。
七原くんと一緒だったんだけど、仕事ほとんど七原くんがやってくれたんだ。
やっぱり七原くんは優しいね。
和雄は昨日喧嘩したの?手加減したんだね。でも喧嘩自体あんまりして欲しくないな。
出来るだけ。怪我しちゃうかもしれないしさ。
でも約束守ってくれたから、お弁当作ってくるね。何がいい?和雄の好きな物作るよ。



和雄はその日記を から受け取って、目を通すと、腸が煮えくり返る様な気持ちになった。
和雄の目に最初に飛び込んで来たのは。
「七原くんは優しいね」という一文。
七原…殺す。

こう見えて、和雄はかなり嫉妬深かった。
拳を握り締め、不敵な笑みを浮かべた。

「七原」
「ん?」
帰り際、和雄は廊下を一人で歩いていた七原秋也を呼び止めた。
「桐山?」
振り返った七原は、一瞬硬直する。
和雄の物凄い形相に、戦慄を覚えた。
「な…なんか用?」
恐る恐るそう訊く。
和雄は不敵に笑った。
七原の制服の襟をぐいっと引っ張る。
「…来れば、わかる」
そう低い声で言って。

次の日、七原は学校を休んだ。
「どうしたのかな、七原くん…」
は少し心配しながら、和雄から渡された日記を開いた。



きょう
学校ちこくした
キタノになぐられた
ばかやろうといわれた
すこしむかついたけどがまんした
とやくそくしたから
が弁当つくってくれるのがうれしい
が作ってくれるならなんでもうれしいけど
できたらたまごやきいれてほしい



は微笑した。
卵焼きは、 の得意料理だ。
早速返事を書く。



卵焼きだね、わかった。明日持って来るね。
今日は和雄のいない時、三村くんに数学教えてもらったんだ。
三村くんてすごいよね。バスケもできるし。尊敬するな。
私も最近朝起きるのツライ…。
遅刻しないように気をつけようね。



和雄はまたしても学校でその日記を読んだ。
僅かに微笑んでいた和雄の顔から表情が消えた。
「三村くんてすごいよね。尊敬するな」
その一文を読んで。
三村…殺す。

こう見えて、和雄はかなり嫉妬深かった。
拳を握り締め、不敵な笑みを浮かべた。

「三村」
「ん?」
帰り際、和雄は部活に向かおうとしていた三村信史を呼び止めた。
「桐山?」
振り返った三村は、一瞬硬直する。
和雄の物凄い形相に、戦慄を覚えた。
「な…なんか用かよ?」
恐る恐るそう訊く。
和雄は不敵に笑った。
三村の制服の襟をぐいっと引っ張る。
「…来れば、わかる」
そう低い声で言って。
三村の手から、シューズケースがぽろりと落ちた。

次の日、三村は学校を休んだ。
「どうしたのかな、三村くん…」
は少し心配しながら、和雄から渡された日記を開いた。



きょう
の弁当たべた
すごいうまかった
またつくってほしい

授業はねむいからずっとねてた



は返事を書いた。



お弁当、あんなのでよかった?
気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。
和雄は寝不足なの?
ゆっくり休んでね。
今日は飯島くんと瀬戸くんと話したよ。
本当あの二人の話って面白いよ。
和雄も今度聞いたら絶対笑うと思うよ。



次の日。
飯島と瀬戸の席は空席になっていた。
七原、三村の席も空いたままだった。

「ねえ国信くん、みんなどうしたんだろうね」
「うーん、秋也はずっと部屋で寝てるよ」
他の三人は分からないけど、そう と話している国信は、
先程から背中に激しい殺気を感じていた。
もちろん彼の背後数メートル先には、金髪フラッパーパーマの少年が瞳を光らせていた。

次の日、国信は学校を休んだ。
その次の日は杉村が、
その次の日には川田が、
そしてその次の日には沼井が、
そんな調子で一日ひとりずつ欠席者が増えていった。
「うーん、風邪がはやってるみたいだなあ」
キタノが出席簿をつけながら首をカクッと傾けた。

「どうしたんだろうね、みんな」
隣の幸枝と話しながら、 は不思議そうな顔をする。

帰り際、
が鞄に教科書をしまっている時、
今や和雄以外で唯一出席している男子、織田敏憲がにやにやしながら話し掛けて来た。
さん、あの風邪はどうやら下品なやつだけがかかるらしい」
「そうかな?」
「もうじき、桐山も休むだろう。そうしたら―」
何だか思わせぶりな発言をしていた織田だったが、背後に突然ものすごい殺気を感じ、
「じゃ、じゃあ僕はこれで失敬…!」
慌てて立ち去った。
「なんだったんだろ?」
は首を傾げた。

それを見つめている金髪頭には気がつかなかった。

次の日。
とうとう最後の男子だった、織田敏憲が休んだ。
和雄以外の男子のいない教室。
さながら女子校の様にも見えてしまう。

「みんな、本当、どうしたんだろう?」
最初に休んだ七原は、一ヶ月近く休んでいる。

は日記を開いた。

そこに記されていた一言。


「これで邪魔者はもう誰もいなくなった」



はそのページと、後ろの席でうたたねしている和雄とを見比べて、
自分が日記帳で和雄以外の男子の話題を出した事を今更ながらたっぷり後悔した
のだった。

「みんな…ごめんなさい」



おわり



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