熟れた罪

この島に連れて来られてから、もう二日になる。
もう、随分と殺した。

あと、何人残っていたかな。

バードコールが聴こえた。
耳を澄ましながらその方向に向かう。
少しだけ、体が重い気がした。

すっかり手に馴染んだマシンガンを握り直す。

終わらせる。

このゲームを、終わらせる。

坂持の放送が聞こえて来た。
俺が殺した生徒たちの名前が呼ばれた。

まだ呼ばれていないのは。
川田と、七原と、中川。

あと、三人。

三人を、殺して。

俺はこのゲームを、終わらせる。

―見つけた。

マシンガンを構える。

トリガーを引く。

川田も、俺と同じ様にマシンガンを撃って来た。
いくつかの衝撃が上半身に跳ねる。
―痛覚はまだ働いている様だ。

目の前の三人は走り続ける。
俺は追いかける。
終わらせる。

俺はこのゲームを、終わらせる。
1人が、突然立ち止まってうずくまった。

セーラー服。女子生徒。
中川典子。

目を凝らして、中川を見た。
中川は頬を押さえている。
その手が紅く染まっている。

中川の顔が歪んでいる。
いつも笑っていた中川の顔が、歪んでいる。

俺が張ったワイヤで切ったのだろう。



撃つのは、簡単だった。

わざわざ助けに戻って来たらしい七原もろとも。

―出来なかったのは。



そんな二人を見た時。

またいつものあの疼きがやって来たから。



鼓膜が破れそうな位。

俺の乗っている車の中に弾が飛び込んで来る音が響き続けた。

ああ、昔。

似た様な事があった様な気がする。

―思い出せない。



何発か、身体に弾が食い込んだ。

―問題ない。

まだ、動ける。



さっきの中川の顔を思い出した。

苦痛を感じている表情。

初めて見た。あんな中川の顔。



教室で女子と話していた、中川。

挨拶をして来た中川。

いつも笑っていた、中川。



中川はもう、笑わないのか?



充を殺して、わかった。

死んだら。

人は死んだら、笑えなくなる。



もう二度と、笑えなくなる。



俺は、笑えない。

生きていても、笑えない。

それなら。

変わらない。



生きていても、死んでいても、変わらない。

俺は、ゲームを終わらせる。

中川と七原と川田を殺さなければ、このゲームは終わらない。

ゲームを終わらせて。

中川を殺して、俺が生き残ったら。



俺が生きていたら、中川は笑えなくなるんだ。

俺が、生きていても。

俺は笑えない。

生きていても、笑えない。



それなら、構わない。

終わらせればいい。



中川が。

俺を。

終わらせればいい。



腹がずきずきと疼いた。

腹だけではなく。

体の、色々な所が疼いていた。



川田を撃った。

七原も撃つつもりだった。



中川は、最後にしようと思って居た。

殺すか殺さないか、決めるのは、最後でいいと。

最後。



最後は意外とあっけなくやって来た。

中川の最後ではなくて。

俺の、最後が。



中川の銃口が、俺の方を向いた時。

終わりだと思った。

避ける事は出来なかった訳じゃない。

ただ、これで終わるのだと思った。

中川が。

俺を終わらせるのだと。



一瞬だけ、中川と目が合った様な気がする。



悲しげな表情。

やはり、初めて見る表情。





最後まで。

笑ってくれないんだな。



俺は、中川の、

笑っている顔を見ているのは、悪くないと思って居た。

中川の様に、笑ってみるのも悪くないと思って、見ていた。



頭に一瞬、酷く重い衝撃が響いて。



終わった。

終わった、そう思った。



不思議な気分だった。

酷く痛むのに。



酷く安心した様な。



俺は、終わらせたかったのではなくて。
終わらせて欲しがっていたのだと。



やっと、気付いた。



俺は、これで終わるけれど。
中川は。

中川は、笑っていた方がいい。
きっと、その方がいい。

中川は、生きているのだから。


おわり

久々桐典。微妙に桐沼。私の中で、桐山にとって充って特別な存在なので、彼の死は桐山にとって大きな意味をもっていると思います。そして桐典に続く。充、悲しい立場ですが(汗)。
桐山は典子さんの弾をわざと受けた。これは私の桐典では定説です(笑)。

桐山は、典子さんの何かに惹かれていたんです。言ってしまえば自分にはないもの。
悲しいけど絶対に手に入れる事ができないもの。住む世界も全く違いそうな二人ですが。
だからこそ惹かれあう事もあるのではないかと。



うちではどちらかと言えば桐山の一方通行ですが(汗)。
桐山一人称、何気に好きだったり。偽ですが。

いずれ典子視点でこの話を書きたいです。

2002年11月