濡れた揺りかご

 れたりか



中川が持っているものが欲しかった。

自分にないものが欲しかった。



中川が、欲しかった。

中川を手に入れれば、

俺の隙間は、埋まるのだと思って居た。



中川を見ていたら、ひどく喉が渇く感じがした。

欲しい。



渇きを癒すものが、欲しい。

ずっと渇いていた。



「痛い、桐山くん、何するの!離して!」

どうして、痛いんだ?



「やめて、離して!」

どうして俺を拒むんだ?



足りないものが欲しいだけだ。

中川の持っているものが欲しい。



手に入れるやり方。

俺はこのやり方しか、知らない。



中川。

中川が、欲しい。



寒かったのかも知れない。

ずっと。

身体が冷たかった。

温めたかった。

温めるには、温かい存在が必要だ。



中川に温めて欲しかった。

中川は、

温かそうに見えたから。



俺の身体の下で、中川は泣いていた。

どうして、泣く?

「やめて、痛い」

辛そうな声で叫んだ。

どうして中川は辛いんだ?



身体は温まらなかった。



中川を抱く。

この行為をしたのはこれが初めてではなかった。

けれど、

自分からそんな気を起こしたのは初めてだった。



眩暈がした。

熱いのはそこだけだった。

身体が寒い。



中川が苦しげに身体をゆする。

そんな中川を見ていると、

こめかみが疼いた。



こうしたかったはずなのに。



なぜかこれは違う気がした。

違う。

埋まらない、隙間。

温まらない、身体。



どうして?



中川を見た。

恐怖に引きつった顔。

涙を、流している。

そんな顔をしているのは初めてだ。

中川が泣きながら叫んだ。



「助けて、助けてっ、秋也くんっ」



俺は七原じゃない。



中川は。

七原でなければ、駄目なのか?



中川の目に俺は映らない。

中川は俺を温めてくれない。



寒い。

苦しい。



中川が泣いていた。

気を失っても、泣いていた。

どうして泣く?



ただ、わかった事。

中川が温めているのは七原。

俺の方は決して見ないのだ。



プログラムに選ばれた。

どっちでもよかった。

ゲームに乗っても、乗らなくても。

変わりはない。



俺の隙間は埋まる事はない。

誰かが埋めてくれるまで。



中川に埋めて欲しかった。



ゲームを終わらせる前に。





夕陽が西の空に傾きかけた時、

無防備な川田を撃った。



油断している。

七原も、油断している。



ふと思った。

七原を殺したら、



中川は俺を温めてくれるかも知れない。



七原に銃口を向けた。



ばん、という音を聞いた。



銃声だった。



頭に大きく響いた衝撃。

七原は銃を持っていなかった。

わかっていた。

引き金を引いたのは、中川。

中川が、俺を撃ったのだ。

一瞬だけ、目が合った。



中川は、俺を憎んでいたのかな。



わからない。

七原を殺そうとしたから?

中川を無理に抱いたから?



もうわからない。



欲しかった。

中川が欲しかった。

けれど、

手に入れることはできなかった。



寒いままの身体。

更に冷えていく。



中川。

俺は、

俺はどうすれば、よかったのかな。



どうしたら、

中川は―



おわり