再会

 気がつくとそこはまばゆいばかりの光の中だった。
「……?」
あたりを見廻す桐山。顎と頬と右目と腹部がひどく痛む。
…俺は…。
戸惑っていると、遠くから声が聞こえてきた。
「ボス」
聞き覚えのある声。桐山はつぶされてひとつになった目を見開いた。
「…充?」
充は涙ぐんでいた。頭を下げて、言った。
「ボス、お疲れさまっす」
「………」
何かを言おうとして、息が詰まった。傷が痛んだ。
「…痛むっすか、ボス。…少しすると楽になります。…大丈夫ですか?」
充が駆け寄ってきて、桐山の腹と背に手を添えて体を支えてくれた。
「なぜ…」
「ボスは…殺されたんすよ。俺と同じところに来たんです」
充を見つめると、やさしい笑顔で返された。充は自分を殺したにもかかわらず、桐山をまったくうらんでいる様子はなかった。
「これからはずっと一緒っすね。…それに、もっと前からボスを待ってた人がいるんです」
「…?」
顔を上げると、そこには一人の女性が立っていた。美しいその女性はどこか見覚えのある顔をしていた。
「……?」
「おかえりなさい、和ちゃん」
自分を「和ちゃん」と呼んでいたのは…。
「…母さん?」
十年前に目の前から姿を消した母は、息子に向けてやさしく微笑みかけた。
ひざまずいて、充の手から桐山を抱き取る。傷ついた体を母のやわらかな腕が包み込んだ。
「私はあの時、…和ちゃんを失うのが何よりも怖かったわ。だから、自分の命に代えても和ちゃんを守りたかった…ひとりにしてごめんなさいね」
「………」
十年前の誕生日に起こった事故。
隣に座っていた母は身を挺して桐山を庇い、そして、桐山が意識を取り戻したときにはすでにこの世にいなかった。
「これからはずっと一緒よ。…和ちゃんと、和ちゃんの大切なお友達と、みんなで一緒にいましょう」
優しく母に抱きしめられて、桐山は頭がぼんやりとしてくるのを感じた。何か、言い出したかったのだがうまく言葉にできない。代わりに母の背中に腕を回して抱きしめた。
一番甘えたかった時期に姿を消してしまった母への思慕の想いが、漸く行き場所を見つけたかのようだった。
「…すまない」
「…え?」
「何と言ったらいいのか、よくわからないんだ」
「和ちゃん…」
桐山は母の顔を見上げた。写真でしか見ることができなかった母。再会できて、本来なら嬉しくてたまらないはずなのに。
母が桐山の頬を撫ぜた。
「…泣かないで、和ちゃん」
「…?」
桐山は言われて初めて、自分が涙を流していたことに気づいた。生まれてきてから、母が死ぬまでの自分は愛されて幸せで、涙を流すようなことなどひとつもなかった。母が死んでからの自分は、なぜかどんなに悲しい(たぶん、誰もがそう感じる)ことがあっても涙を流すような気持ちになったことはなかった。それが…。
母はハンカチで、桐山の血で汚れた顔を綺麗に拭いてあげた。
「もう悲しい想いも、痛い思いもするようなことはないわ。もう、泣かなくていいのよ」
「…母さん」
桐山は母を抱きしめる腕に力をこめた。

「良かった…良かったっすね…ボス…」
充が自分ももらい泣きしたようにぼろぼろと涙をこぼした。
「充、…すまない、俺は…」
「いいんです。…全部、わかりましたから。皆知ってるっす。ボスが悪かったわけじゃないって…」
充が後ろを振り返りながら言った。そこには笹川、黒長、月岡の三人が目を潤ませて立っていた。


おわり

2004/12/28