きみはひとりきり いつだってひとりきりあるいていた
 

 ボスは、俺なんかの考えが及ばないくらい遠いところにいた。

それが悔しくて、やるせなくて、最期のその瞬間まで俺はボスを許せなかった。

「何もない空間」

本当に俺たちといて、何も感じなかったのか?
本当に………

何度も問いかけたい思いに駆られたが、笹川や黒長、ヅキに、金井に止められた。

「やめとけよ。もうあんなやつに構うことない」
「もうボスって呼ぶこともないね」
「アラ、あたしは最初から信じてなんていなかったわよ」
「あんな怖い人だったんて…知らなかった…沼井くん、もう、やめよう。ね?」




ボスは…桐山和雄は真っ暗な空間の前で一人立ちつくしていた。
一足先に川田が入っていった空間。…俺はその底知れなさにゾッとした。

まるで、ボスの心の中みたいだ。

でも、俺は諦められなかった。

「ボス」

声をかけると、ボスは振り返った。悲しいくらいにその顔はきれいで、無表情だった。

「俺は地獄へ行くんだ。お前たちとは一緒に行けない」

ボスは低くもないのによく通る声で言った。

「…ひとりで、行くなよ」
「何故だ」
「俺には…俺にはボスが必要だからだよ!あんたがいくら何も感じてなくたって、関係ないよ!俺にはボスが必要なんだよ」

ボスが、少し目を丸くした後、こめかみに手をやるのがわかった。俺はそのボスの手をぎゅっとつかんだ。

「俺は、そちら側へは、いけない」
「だったら俺も一緒に行ってやるから!一人で、行くなよ」

笹川たちが止めに入っても、俺はボスの手を離さなかった。
金井は涙を流した。


「………なぜなのか…俺にはよくわからない、わからないよ。充。なぜ、充は俺をそこまで必要とする?なぜ、俺は充が死んだあと、ここが痛んだんだ?…ワカラナイ…ワカラナイ…」

壊れたロボットみたいに、ボスはわからない、と繰り返した。その様子はとても苦しそうに見えた。

「どうでもいいだろ!一緒に、一緒にいよう。ボス!」

俺の言葉にびっくりしたように目を瞬かせながら、ボスはわずかに頷いた。

おわり

 2008年4月29日