Lies and Truth

「ボス、湯加減どう?」
「ああ、丁度いいよ」



桐山は充の家に来ていた。

学校から帰ってくる途中、雨が降ってきてしまったので

充はとりあえず桐山に家に寄ってもらうことにしたのだった。



シャワーを浴びてもよかったのだが、もう十月の半ば、気温も大分低い。

雨に濡れて冷え切った体を温めるために、充は湯を貯める事にした。

もちろん桐山に先に入ってもらった。

「ボス、バスタオルここに置いとくからな」

充はそう言って風呂場のドアを閉めた。

「ああ」

微妙に反響して聞える桐山の声が返って来た。

充の鼓動が早まった。

早足で居間に向かった。



充は居間に入ると、溜息をついた。

「ああ、最低だ、俺...」

さっき、バスタオルを置くときに、扉の向こうに居るであろう、一糸纏わぬ姿の桐山の姿を思い浮かべて、充は欲情してしまったのだ。

桐山とはもう何度か肌を合わせた仲だし、お互い裸になる事も珍しくはなくなっていたのだけれど。

やっぱり、風呂に入ってるのって...新鮮だよな...



充の脳裏には湯船につかり、のぼせた様にほのかに頬を紅く染め、けだるげに目を伏せている桐山の姿が浮んでいた。

充は下半身に熱い疼きを覚えた。

何考えてんだ俺、これじゃ変態みたいじゃねえかよ!

見たいと思うなんて。桐山が湯につかる姿を。

頭では否定しても、身体は悲しいほど素直だ。

充は自分の熱を持て余した。

桐山が家に来た時は、大抵セックスをする事になるのだけれど。

風呂は、まずい。それにいくらなんでもボスだって...怒るよな。



でもこんなになってて...ボスにどうやって言い訳しよう。

まさかボスが風呂入ってるとこ想像して興奮したなんて、言えない。

どうしようか。

収まりそうにない熱を手で押さえながら、また充は溜息をついた。



その時だった。

「充」

桐山の声が響いて来た。

充は慌てて風呂場へと駆け出した。

「どうしたの?ボス」

風呂場のドアを開けた。

もう出るのかと思ったが、まだ桐山は中に居るようで、一向に出てくる様子はない。

充が不思議に思っていると、また桐山の声が響いて来た。

「充は、入らないのか?」

「...え?」

充は真っ赤に顔を染める。

ま、まさかボス...、いや、そんなわけない。何期待してんだよ俺...。

「お、俺はボスが出た後に...」

「一緒に、入らないのか?」

充はその桐山の言葉に思わず固まった。



「ボス...」

「温かいぞ」

おっとりとした桐山の声が返って来た。



「い、いいの?ボス?」

「何を断る必要がある?ここは、充の家の風呂じゃないか」

充はまた下半身の熱が疼くのを感じた。

「じゃあ、俺も入るよ...ボス」



充は服を脱いだ。

もうそれからは夢中で、

服も下着も脱衣かごに適当に突っ込んだ。



「ボス、入るよ」

「ああ」

充はそれでも多少恥らいながら浴室のドアを開けた。

がちゃりと音がして扉が開き、湯気がたちこめる。



桐山が湯船に浸かっていた。

そんなに広くない浴室の中、その桐山の姿は間近に見えた。

充はごくりと息を呑んだ。

想像していた以上に美しい、桐山の姿。

普段のオールバックはもう完全に崩れ、長めの前髪が額に、襟足が首に張付いていた。

目は少し伏せられていた。

肌は上気していた。

「ボス、もう身体洗ったのか?」

「ああ」

「じゃあ俺も今から洗おうかな」



充はタオルにボディソープを染み込ませた。

充は桐山に見られない様にそこを隠すようにして身体を洗った。

桐山の視線を感じた。

何か...恥ずかしいな。こういうの。

湯で身体を流した。



次にシャンプーを手に取り、明るいベージュの自分の髪に馴染ませた。

カラーリングで痛んでいる髪用の、トリートメント配合のものだ。

泡立てた。

まだ桐山の視線を感じた。

「ボス、のぼせてない?平気?」

充は目を閉じたまま、言った。

「ああ」

充は頭にも湯をかけて泡を洗い流した。



充は目を開けた。

桐山と目があった。

桐山はつと、視線を下に移した。

何だろうと思い、充はその視線を追いかけた。

とたんに充は赤面した。

「ご、ごめんボス!俺、そんなつもりじゃ...!」

隠すのを忘れていた。

桐山は特に表情を変えなかった。

「気にする事はない」

続けた。

「俺も、同じだ」



充はその桐山の言葉にまた固まった。

「ボスも...?」

「ああ、だから、呼んだ」

恥ずかしげもなくそう言う桐山に、充は思わず苦笑した。

なんだ...ボスも、同じか。

おかしくなった。それに、何だか嬉しかった。



「充?」

桐山が怪訝そうに充を見た。

「ああ、何でもない。気にしないで、ボス」

充と桐山の視線が絡んだ。

「どうしよっか...ここで、する?」

「湯が汚れてしまうかもしれないが」

「俺は、全然いいよ」

「それなら、俺も構わない」

桐山が湯から上がった。

肌はほんのり薄紅色に染まっている。

露になった下半身は、桐山の言葉通り、既にかなりの熱を帯びているように見えた。

「ボス」

充は桐山の頬に手を当て、そして口付けた。

舌を入れた。

桐山も応えた。

こんなキスの仕方も桐山に教わった。

桐山は、「こうしたのは初めてだ」と言っていたけれど。

充は桐山と舌を絡ませたまま、桐山の下半身に手を伸ばした。

そこは湯ではないもので濡れて居る様だった。

手で軽く握った。

「ふ...っ...」

桐山が身体を震わせた。

口付けをやめ、充は桐山を抱き寄せた。

片手は愛撫を続ける。

桐山の足ががたがたと震えた。

もう立っているのが辛そうに見えた。

「ボス、ここ座って」

少し上擦った声で充は言い、桐山の身体を支えて、椅子に座らせた。

桐山の呼吸は乱れていた。

「足、もう少し開いて、ボス」

充の言うとおり桐山がためらいなく足を開くと、充はそこに顔を埋めた。

「...っ...あ...」

桐山のか細い声が浴室に響いた。

充は愛しくて仕方の無いものの様に、丁寧に桐山のものに愛撫を加えた。

滲み出す雫を舌で絡め取ってやる。

普段より少し薄い味の様な気がした。

風呂に浸かった後のせいだろうか。

尖端の窪みを舌で擦ると、桐山の足が震えた。

桐山の手が充の頭を押さえた。



初めての時は、桐山がこうして充のものを愛撫してくれた。

充も最近になってようやくこうすることが出来る様になった。

射精が近づいたのか、口の中で桐山のものが震えた。

充はそれと知って、もう一度桐山のものに強すぎない刺激を加えた。

「っ...ああっ...!」

桐山の手にぐっと力が篭もり、充の口の中で桐山は熱を開放した。

充は一滴も残さずそれを飲み込んだ。

もう慣れた味だった。

「ボス」

充の声に桐山は顔を上げた。

どこか充は切なげな顔をしていた。



「俺、もう入れたい...」

「構わない。だが、充はいいのか?」

「うん。もう、早く、入れたいから」

「そうか」

桐山が腰を浮かそうとしたのを、充は捕らえた。

再び桐山の下肢に顔を埋める。

「...っ...」



驚いた様に桐山が目を瞬かせ、そしてまた充の頭を抱きしめた。

充の舌は桐山の花弁をなぞっていた。

「ここもちゃんと濡らしとかないと、痛いだろ?」

「...う...っ...」

先程より押し殺したような桐山の声が聞こえた。

充は自分の指も舐めた。

ほぐれかけた桐山の花弁をそっとその指で開く。

「あ...ああ...」

桐山がうめいた。

充は丁寧に桐山の中を指で慣らしていった。

温かく湿った感触に充はまたごくりと息を呑んだ。

ここを愛撫するのにも、もう慣れたのだけれど。

いつ見ても桐山の反応は新鮮に見えた。

「ボス...ごめん俺もう我慢できないや...入れていい?」

「構わない...」

桐山は少し息を乱しながらそう言った。

充の指が引き抜かれた。桐山がびくりと身体を震わせる。

充は桐山の腰を抱き上げた。

すぐに自分の膝に座らせる。

充の熱く大きいものが桐山の花弁を押し広げて侵入していく。

「...みつる...っ...」

「ボス...っ...」

入り口はとても狭かった。

扱かれる様にして充のものは桐山の奥深くまで埋まった。

すぐに腰を動かした。

桐山は突き上げられる度に小さく声を洩らした。

充はそれからはもう手加減が出来なかった。

桐山の事を思いやる余裕も無くなっていった。

「ボス...」

充は桐山の顔を見た。

桐山は眉を寄せて、目を閉じていた。

肩で息をしていた。

「ボス...?」

桐山が急に静かになったので充は心配になって聞いた。

「大丈夫か?ボス」

桐山の瞼がそっと持ち上がった。

「充」

桐山は充の頬に手を当てた。

そっと口付けた。

「大丈夫だ。続けてくれ」

「ボス」

充は桐山の背に手を回して、ぎゅっと桐山を抱きしめた。

桐山は強い。

自分よりも、遥かに強い。

それは間近で見てきた自分が一番良く知っている。

けれど、こうして肌を合わせている時の桐山は、

力の加減ですぐに壊れてしまいそうな、ひどく弱々しい存在に見えるのだ。

そんな桐山を、充は愛しいと感じた。

こんな桐山を、自分だけのものにしたいと思った。

充は動きを再開した。

桐山の手が充の背に回り、爪を立てた。

「充...」

少し掠れた様な桐山の声が聞こえた。

その声を聞くと、充は自分の欲望を、桐山の中で開放した。

桐山が小さく身震いをした。

桐山も再び熱を解き放った様だった。





充は湯船に浸かったままぼんやりとしていた。

うっかりすれば眠ってしまいそうだ。

ぬるめの湯の温度が肌に馴染んで心地良い。

それに。

桐山とセックスをした後は、不思議な充足感があった。

セックスをしている最中は、夢中で快楽を貪る。

もちろん、桐山にも気持ちよくなって欲しいから、

懸命に愛撫はするけれど。

こうして残っている心地良い余韻は、快楽とはまた違った。

充は桐山以外の相手とセックスをした事はない。

だが、何となく、思った。

ボスとするから、気持ちいいんだ。

ボスとするから、こんなに安心するんだ。



桐山にはもう出てもらった。

あまり長い事湯に浸かっていてはのぼせてしまうので。

行為が済んだ後、身体を洗って桐山は出て行った。

居間で休んでいるはずだ。

充はぼんやりと考えた。

ボスはどうなんだろう。気持ちいいって思ってくれてるかな。

ボスは結構こういう事慣れてるみたいだし。俺が初めてじゃないよな。

他にも、こうしてる相手とかいるのかな。

充はずきりと胸が痛むのを感じた。

でも、それは俺がいう事じゃないよな。

きっとボスにはボスの事情があるんだから。

充がそんな事を考えて頭を悩ませている時だった。



「充」

桐山の静かな声がした。

「身体が冷えてしまったんだ。もう一度、入ってもいいかな」



充ののぼせかかった頭が一気に覚醒した。

「あっ...そう?じゃあ、待ってて!俺すぐ出るから!」

「いや、そのままでいい」

「えっ?」

「充と、入りたいんだ」



充はその桐山の言葉を聞いて、また顔を紅くした。

返事に窮した。

「充は、もう出たいのか?」

「ううん!違う。俺もボスと入りたいよ!」

そう言ってしまってから充はしまった、と思った。

大声で本音を言ってしまった。



少し間があった。

「じゃあ、入るよ」



桐山と充は二人一緒に湯船に浸かっていた。

あまり大きくはない浴槽から湯が溢れてぴちゃぴちゃと零れた。

充の目の前に桐山の背中があった。

充はその背にそっと顔を寄せた。

「いい匂いするな、ボスって」

「充と、同じ香りだ」

桐山が振り向いた。



驚く充の唇に、そっと自分のそれを重ねた。

「同じシャンプーを使った」

充を上目遣いに見上げて、桐山はそう言った。

「そっか...」

充は微笑んだ。何だか嬉しかった。

桐山の背中に手を回して、自分の胸に抱き寄せた。

「何か、安心するな。ボスと居ると」

桐山は黙っていた。

温かい湯の中で二人きりで居る。

その事がこんなに心地良く、安心するものだったなんて。

充はとても幸せだと思った。

桐山とこうしていられる事が。

「充」

桐山が充の胸に頬を寄せた。

心地良い感触だった。

「俺も、充と居ると、落ち着ける気がする」

心地良い言葉が充の耳に響いた。



充は桐山を抱く腕に、ぎゅっと力を篭めた。

「同じだね、ボス」

充は思った。

俺、余計な心配し過ぎてたのかもな。

そうして暫く抱き合っていた。

ボスも、同じ気持ちだったって思っていいんだよね?

言葉には出さなかったが。

桐山と目が合うと、桐山は充の気持ちに応えるように、そっと充に口付けた。



おわり