今日も訓練が続いた。朝から晩まで。
一方的にやられるばかりだった昨日に比べれば善戦したほうだと思う。
十対一。…父に言わせればそれくらいの敵を倒せなければ桐山家の当主の座は譲れないとのことだった。
特に桐山家の当主の座に執着があるわけではなかったが、ほかに目的もなかったので。
最期の掌底を相手に叩き込むと、俺はひざを折った。
口元から血がたらたらと流れ出すのを、他人事のように感じながら。
「和雄くん、どこか痛い部分はあるかい」
「腹と腕。…たぶん、骨折していると思う」
俺の担当医の青山が、「そうかい」と言って悲しそうに笑いながら、「じゃあ、いつものとおり入院の手筈を」と俺に伝えた。俺は頷いた。
腹部は小さいころから何度も骨折や内臓の破裂を繰り返しているから、痛みはあるが別の器官のようになってしまった。対戦相手に戦った感想を聞いたことがある。「まるでタイヤを殴ったような感覚だった」と。
実際筋肉にしっかりと守られて、以前よりは痛みを感じないようになってきている。こうして作られていく体は、義父のためにあるのであって自分のためにあるのではない。
そう思っていた。…「プログラム」に巻き込まれるまでは。
杉村に捉えられた俺は、みぞおちに銃をつきつけられた。ばん、火薬の爆ぜる音がして俺はみぞおちに鋭い痛みを感じた。といっても防弾チョッキ越しだ、問題はない。内臓への影響がなかったのは幸いだった。
杉村は続けざまに撃って来た。それに耐えるのは困難ではない。もっと過酷な拷問はいくらでも受けてきた。
十分に弾を撃ち尽くした杉村に向かって、俺はナイフを突き刺した。…
腹部に鈍痛がするまま、車を動かしていた。気分が悪くなるか少し気がかりではあったが、義父の施した戦闘訓練は十二分に役に立った。
優勝まで、後少し。
車を壊されて、無防備な状態になったところを、ショットガンの一撃で弾き飛ばされるまでは、そう思っていた。
痛い。…
唐突に、誰かにその感想を訴えたい衝動に駆られた。だが周りは敵だけだ。苦しむクラスメイトをすべて葬り去った。俺も同じように葬られるのだろう。
ショットガンで撃たれた時の痛みは今までの比ではなかった。内臓は確実に損傷している。長くは生きられないだろう。
それでも俺は身を起こし、銃を手に取った。義父は敗北を許さないだろう。それだけのために。
ばん。
標的を七原に据えた、その時に、俺は頭に響く銃声を聞いた。
…お父さん。
申し訳ありません。もう、俺は、動けません。
おわり
2008年4月29日
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