ガラス窓の向こう側

「兄」と呼べる人がこの世を去ったのは、僕が「ここ」に来る一ヶ月ほど前なのだという。

兄と言っても血の繋がりはない。僕も義兄も、義父が選んだ養子の一人にすぎない。
ただ兄は、僕がこの一ヶ月で学んだことの数百倍の知識を持っていたとは聞かされていた。

兄の写真は、義父がすべて捨てたという。
兄の生前を知る者たちは皆「天才だった」「生きる芸術品のようだった」と口々に褒め称えたが、同時に「とても冷たい人形のような人だった」とも言っていた。

僕は兄を知りたかった。

義父の気を引いてやまない兄。…僕が決して越えられないところにいた兄を。



兄の墓は、城岩町の郊外にひっそりと建っていた。
執事が一礼して去ると、僕は持ってきた花をその花瓶に活け、手を合わせてみた。

宗教なんて信じていなかったけれど、そうするものだと考えたから。それだけだった。



兄のいない隙間を埋めるべく、桐山家を継ぐべく、僕は毎日学習をし、体術を学んだ。

数百人から選ばれた僕は、自分の力に自信を持っていた。しかし義父はいつも悲しそうに首を振るのだ。

「和雄以上の逸材は、やはりこの世に存在しない」と。




僕は兄を越えられなかった。

気が向くと僕は兄の墓へ出かけた。小さな墓。そこに眠る存在は、いったい何を思って義父とともに過ごしたのだろう。

何を思って息絶えたのだろう。

すべては謎のまま。

今日も僕は学習を続ける。
張り付いた笑みは、兄が生涯見せることのなかったという表情。

―笑顔。

僕が本当に楽しいと感じている時も、そうでないときも、僕はそれを絶やさずにいることで、僕は兄から遠ざかった。


おわり

 2008年4月29日