雪が降る
雪が降る
降り積もる
俺の想いと、同じように。
Days
城岩町に今年一番の雪が降ったのは、12月も後半に近くなってのことだった。
冬休み前日のその日、城岩中学校の校舎を白い雪が染めた。
「慶時、見ろよ、雪積もったぜ」
「秋也、未だに雪が好きなんだね…」
「当然だろ。雪が降ったら雪合戦に決まってる」
城岩中学校二年B組、七原秋也と国信慶時が終業の鐘を待って外に飛び出した。慶時は秋也に連れられて渋々といった様子であったけれど。
「俺が上だよ、ベイビ。それでもよければ相手してやるぜ」
片目を閉じて三村信史が言った。寒さに縮こまった瀬戸豊がその隣で小さくガッツポーズを取った。
「雪だぁ…」
金井泉がうっすらと紅く染まった頬を両手で押さえ、嬉しそうに言った。
「積もるみたいね。でもすごく綺麗」
「ふぅー、こんな日は肉まんでも食べたいなあ」
「有香、また太るわよ」
「うるさーいっ…」
内海幸枝、谷沢はるか、中川有香の三人が、はしゃいで今にも外に飛び出しそうな泉を制しながら、
それでも笑顔で舞い散る粉雪を見詰めた。
雪まみれになった、秋也を見詰めていたのは内緒だ。
「くっそー、三村のヤツ、ぜってぇ負けねえからな」
「お生憎様。俺が上だってこと」
紺のPコートにうっすらと雪化粧をした三村の姿を、松井知里が眩しそうに見ていた。
「ボス、今日は一段と寒いと思ったら、雪が降ってきたな。…喧嘩も一休みしようぜ」
「ああ」
桐山ファミリーの参謀、沼井充が、雪だるまを作り始めた泉を片目でちらりと見てから、言った。
桐山は教室から外の景色をぼんやりと眺めていたが、やがて、立ち上がった。
「アラ、桐山くんも雪合戦するの?」
月岡彰の言葉も聞かず、桐山はひとりでずんずんと雪道(といっても一、二センチ程度しか積もっていなかった)
を進んで行った。
彼の履く上品な革靴がずぶりと雪に埋もれた。
薄いピンク色のマフラーを巻いた中川典子が、桐山の進行方向にいた。
「中川」
「…桐山くん」
少し驚いたという風に目を丸くする典子の手には、青いリボンの巻かれた白い包みがあった。
「そのプレゼントは、誰に渡すんだ?」
「―内緒」
微笑む典子に、桐山は少しだけ首を傾げた。
雪はあっというまに校庭を銀世界に変えた。
それでも止むことを知らない雪は、桐山の学生服にも積もった。
典子がきょろきょろとあたりを見回しているのを見て、桐山は声を掛けようとした。
しかし、立ち止まった。
典子が微笑んでいる隣には、七原秋也がいて。
そっとプレゼントを受け取る秋也と、「幸せ」そうに笑っている典子。
いつまでも、いつまでも。
この想いの正体を知ることはない。そんな気がした。
こめかみが鈍く疼いた。
秋也が慶時と共に帰って行くのを、名残惜しそうに見送る典子の後ろから、桐山は「中川。」一言だけ声を掛けた。
「桐山くん?」
「俺は、中川が笑っているなら、それでいい」
瞬きをする典子の頬に、桐山はそっと触れた。
「…温かいな」
「―え?」
「…すまない」
典子の頬から手を離し、その手をそのままこめかみに当て、桐山はそっと背を向けた。
戸惑い、思わず自分の頬に手を当てる典子を残し。
雪が、降り積もる。
―あと何回、中川と言葉を交わすことができるだろう。
ふと、そんなことを考えた。
典子がいるだけで、それだけでいいのだと。
そう思ったのはどうしてだろう。
答えは出ないまま。
雪が降り積もる。
冷たい雪は、桐山の掌の中で、儚く解けた。
おわり
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